連絡先: http://www.sal.tohoku.ac.jp/~tsigeto/officej.html
田中重人 (東北大学文学部准教授)

ジェンダーと人間社会

1年生対象:2010年度2セメスタ (全学教育・基幹科目)
<月4>B-200 [全学教育授業検索システム]
[当日配布資料] [課題用紙]
[スライド] (当日の説明で投影しなかった資料を含む)

第10回 労働問題とジェンダー (12/13)

[テーマ] 労働問題がなぜ固有の社会問題の領域として成立しているのか、歴史的・規範的視点から理解する

課題と授業方式について

課題: 労働市場では、通常の経済的取引においては問題ない行為が禁止されていたり、逆に通常の経済的取引では禁止されている行為が容認されていたりすることがある。このような現象にあてはまる具体的な例をあげたうえで、なぜ労働市場が特別なあつかいとなっているかを説明せよ

授業前半と後半に構想と執筆のための時間を設ける。


歴史的説明

階級闘争

社会的ジレンマ

「社会的ジレンマ」(social dilemma) とは …… ミクロな水準での各行為者の合理的な行為の集積が、マクロな水準では非合理的な結果をもたらす現象

共有地の悲劇: 共有の牧草地で複数の農民が牛を放牧している場合を考える。それぞれの農民は、利益の最大化を求めてより多くの牛を放牧しようとする。その結果として、牧草が食べつくされてしまい、共有地が荒廃してしまう。

個々の行為者の努力では解決できないので、政府による介入の必要性が出てくる。

労働力再生産問題: 各企業としては、労働者を安く使いたい。しかし、そのために労働条件が悪化すると、労働者の健康が維持できなくなる。また、次の世代も育てられなくなる。

規範的説明

自由権の保障

一方が労務を提供し、それに対して他方が賃金を払うという契約のことを「労働契約」と呼ぶ。

労働の従属的性格

奴隷制・人身売買・強制労働との区別がしばしば困難である

平等権の保障

労働者を雇うという行為は、ある程度「公的」な性格を帯びたものと考えられている。

私人どうしの契約であっても、完全に当事者の自由にまかされるわけではない。

民法 90条: 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする

社会権と社会保障

近代的な基本的人権の概念は、自由権と平等権からスタートした。 20世紀に入って基本的人権の概念が拡張され、「社会権」と呼ばれる一群の権利がふくまれるようになる。

憲法 25条: すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する

社会権を保障するための発達した社会保障制度を持つ国家が20世紀後半になって出現した。これが「福祉国家」(welfare state) である。福祉国家を維持するには、政府による公的扶助と社会保険のほか、家族と労働市場を通じた社会保障の仕組みが不可欠である。


性別との関連


条文一覧

解雇権濫用法理

労働契約法 (2007年 法律128号) 16条: 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする

労働三権 (団結権・団体交渉権・争議権)

憲法 28条: 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する
労働組合法 (1949年 法律174号) 6条: 労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する
労働組合法 7条: 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。 / 1 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること……
労働組合法 8条: 使用者は、同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない

差別禁止

憲法 14条: すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない
労働基準法 (1947年 法律49号) 3条: 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない
労働基準法 4条: 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない
男女雇用機会均等法 (2006年改正) 5条: 事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない
男女雇用機会均等法 6条: 事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。 / 一 労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練 / 二 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの / 三 労働者の職種及び雇用形態の変更 / 四 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新

文献


TANAKA Sigeto / 2010年度授業一覧

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