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田中重人 (東北大学文学部准教授) 2014-07-18

現代日本論基礎講読「論文作成の基礎」

第13講  公表文書の倫理


[配布資料PDF版]
[テーマ] 文章作成/公表における倫理的な注意事項

文章を公開することによって生じる問題


情報をめぐる利害

文章を書く=情報の流布 → 他人の利害との衝突

学問上の優先権

学問の世界では、「誰が最初に考えたか (または発見/発明したか)」ということに非常に高い価値が置かれている。 第1考案者 (または発見/発明者) は、そのアイデアや発見について「優先権」(priority) を持つ。

優先権は、著作権とはちがって、時間がたっても消滅せず、譲渡・相続不可能である。 また、引用するに当たって当事者への連絡・許可は不要である。

大学のレポートにおけるplagiarismは、筆記試験における cunning と同様の不正行為とみなされる。

経済的利益の保護

経済的利益を保護するために、さまざまな「知的所有権」が設定されている:特許権/意匠権/商標権/実用新案権 など。これらはいずれも、 経済的利害 がなければ問題にならない。

著作権

これに対して、著作権 (copyright) の侵害は、経済的利害がなくても問題になりうる。 (→「版権」は旧称)

著作権者は著作物について種々の権利を持つ

著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条) をいう。たとえば文章/音楽/舞踊/美術/建築/図面/映画/写真/プログラムなど (著作権法10条) がこれにあたる。アイディアやデータそのものではなく、それらの表現されたかたちが保護の対象になる。

著作物からの引用

公表された著作物から通常の文章だけを引用する場合の 許容範囲 (教科書p. 165 に田中加筆)

文章以外の引用の場合は、つぎのようにする

絵画, 図面, 写真, CGなど: 著作権者の許可をえる (教科書p. 166)
表, 詩歌, キャッチコピーなど: グレーゾーンだが、許可をとるほうがよい。歌詞については日本音楽著作権協会 (JASRAC) が手続きを代行していることが多い。

秘密を守る権利

名誉毀損罪: 「公然と事実を指摘し、人の名誉を毀損した者は〔……〕に処す」 (刑法230条)
プライバシーの権利: 判例「宴のあと」事件 (東京地裁1964.9.28) 「私生活をみだりに公開されないという法的保障」

名誉やプライバシーの侵害が許容される例外的な条件は、次のふたつ (刑法230条の2第1項ほか)。

ただし、つぎの場合は許容基準があまくなる。

公表前に十分な準備を

許可のないまま公表せざるを得ないこともあるが、相応の覚悟が必要である。


差別表現とステレオタイプへの対処

マイノリティに対する蔑視表現、あるいは属性に基づく固定的イメージ (stereotype) を助長する表現に注意すること。

こうした表現が問題になるかどうかは文脈による。自分の文章がどのような派生的効果を持つか、読者によってどのように受け取られる可能性があるか、よく考えること。


期末レポートについての意見交換

「議論」のふたつのモード

今日は後者のモードで。


文献


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