高校副教材「妊娠しやすさグラフ」をめぐり可視化されたこと

田中 重人 <http://tsigeto.info/16y>
(東北大学)
シンポジウム「少子社会対策と医療・ジェンダー: 「卵子の老化」が問題になる社会を考える」 (2016-06-18)
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[http://hdl.handle.net/10097/64282] (on TOUR = Tohoku University Repository)


報告要旨

2015年8月、文部科学省作成の高校保健副教材『健康な生活を送るために』[1] に「女性の妊娠のしやすさの年齢による変化」の改竄グラフ (図1) が掲載された [2] [3] [4]。このほかにも、産婦人科・生殖医学業界では怪しげなグラフが種々使われている。本報告では、これらのグラフの問題点を解説するとともに、間違った知識を流布させようとする専門家にどのようにして対抗すべきかを考察する。

図:産婦人科・生殖医学で2012年以降に広報・政治活動に使われてきたグラフの例

(画像については、 報告要旨PDF版 をごらんください)

図1: 高校保健副教材 (2015年8月) [1]。初出は吉村 (2013) [5]。Bendel + Hua [6] の計算結果が3回にわたって改変されてきたもの [2] [3] [4]。
図2: 少子化危機突破タスクフォース (2013) [7]。Bunting et al. [8] Fig 1 に加筆したもの。翻訳の質が低く、国際比較に使える調査ではない [9] [10]。
図3: 日本生殖医学会 (2013) [11]。 Menken et al. [12] Fig 1 の10本の線から、傾きの大きい線が多く選ばれている。4本中1本は元グラフに存在せず、「17世紀」「20世紀」の凡例は間違い [13]。
図4: 辻本ほか (2013) [14]。データ源不明 [15]。世界各国の多数のウエブサイトに出現する。最も古くは Carcio (1998) [16]。
図5: 齊藤 (2014) [17]。Dunson et al. [18] Fig 2に加筆したもの。ベイズ推定だがモデルと事前分布が特定できない。同データによる別論文 [19] と結果が全く違う。日本での初出は齊藤+白河 (2012) [20] か。

文献

  1. 文部科学省 (2015) 「健やかな妊娠・出産のために」『健康な生活を送るために (高校生用)』.{http://web.archive.org/web/20150822025627/http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/08/17/1360938_09.pdf}
  2. 高橋 さきの (2015)「「妊娠しやすさ」グラフはいかにして高校保健・副教材になったのか」『SYNODOS』2015.09.14. {http://synodos.jp/education/15125}
  3. 田中 重人 (2016)「「妊娠・出産に関する正しい知識」が意味するもの」『生活経済政策』230: 13-18. {tsigeto:16a}
  4. 田中 重人 (2016)「【解題】高校保健副教材「妊娠しやすさ」グラフの適切さ検証: 人口学データ研究史を精査」.{http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160331}
  5. 吉村 やすのり (2013)「卵子の老化―続報― 女性の年齢と妊孕力との関係」吉村やすのり生命の環境研究所 ウエブサイト記事 (6月25日). {http://htn.to/iwLzgH}
  6. Jean-Pierre Bendel + Chang-i Hua (1978) "An estimate of the natural fecundability ratio curve". Social biology. 25(3): 210-227. {doi:10.1080/19485565.1978.9988340}
  7. 少子化危機突破タスクフォース (2013)「妊娠・出産検討サブチーム報告」少子化危機突破タスクフォース第3回資料 (5月7日). {http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/taskforce/k_3/pdf/s4.pdf}
  8. Laura Bunting et al.(2013) "Fertility knowledge and beliefs about fertility treatment: findings from the International Fertility Decision-making Study". Human reproduction. 28(2): 385-397. {doi:10.1093/humrep/des402}
  9. 田中 重人 (2016)「濫用される国際比較調査と日本の世論形成: International Fertility Decision-making Survey と少子化社会対策大綱」第61回数理社会学会大会. {tsigeto:16z}
  10. 田中 重人 (2016)「日本人は妊娠リテラシーが低い、という神話: 社会調査濫用問題の新しい局面」『SYNODOS』2016.06.01. {http://synodos.jp/science/17194}
  11. 日本生殖医学会 広報部 (2013) 「年齢が不妊・不育症に与える影響」『不妊症Q&A よくあるご質問』.{http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa18.html}
  12. Jane Menken + James Trussell + Ulla Larsen (1986) "Age and infertility". Science. 233: 1389-1394. {doi:10.1126/science.3755843}
  13. 田中 重人 (2016)「Menken ほか (1986) の Science 論文から「代表的なデータを抜粋」したと称する日本生殖医学会サイトのグラフについて」 {http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160430}
  14. 辻本 陽子 + 糟谷 美穂 (ほか) (2013)「出産希望年齢と妊よう力知識の関連」平成24年度厚生労働科学研究費補助金 (母子保健事業の効果的実施のための妊婦健診、乳幼児健診データの利活用に関する研究) 分担研究報告書, pp. 177-182. {http://www.aiiku.or.jp/~doc/houkoku/h24/19019A130.pdf}
  15. 田中 重人 (2015)「改ざんグラフを持ち込んだ吉村泰典内閣官房参与と関連専門9団体への質問状」シンポジウム 高校保健・副教材にみる専門家の倫理と責任 (11月30日 東京). {tsigeto:15w}
  16. Helen Nelson Carcio (ed.) (1998) Management of the infertile woman. Lippincott. {ISBN:0781710448}
  17. 齊藤 英和 (2014)「妊娠適齢期を意識したライフプランニング」新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会 (第3回) {http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/taikou/k_3/pdf/s2-1.pdf}
  18. David B. Dunson + Bernardo Colombo + Donna D. Baird (2002) "Changes with age in the level and duration of fertility in the menstrual cycle". Human reproduction. 17(5): 1399-1403. {doi:10.1093/humrep/17.5.1399}
  19. Bernardo Colombo + Guido Masarotto (2000) "Daily fecundability". Demographic research. 3(5). {doi:10.4054/DemRes.2000.3.5}
  20. 齊藤 英和 + 白河 桃子 (2012)『妊活バイブル』講談社. {ISBN:9784062727518}
  21. David B. Dunson (2001) "Bayesian modeling of the level and duration of fertility in the menstrual cycle". Biometorics. 57(4):1067-1073. {doi:10.1111/j.0006-341X.2001.01067.x}

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