日本人は妊娠・出産の知識レベルが低いのか?
- 少子化社会対策大綱の根拠の検討
田中 重人
<http://tsigeto.info>
(東北大学)
ed.= 西山 千恵子 + 柘植 あづみ『文科省/高校 「妊活」教材の嘘』論創社: 第6章 (pp. 135-159) (2017)
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要約
2015年3月20日に閣議決定された「少子化社会対策大綱」は、「きめ細かな少子化対策の推進」として「妊娠や出産などに関する医学的・科学的に正しい知識」を普及させるという課題を掲げている。学校教育については特に「正しい知識を教材に盛り込む」と明記しており、これが文部科学省作成の高校保健・副教材『健康な生活を送るために(平成二七年度版)』に「妊娠のしやすさ」の項目などを入れる根拠となった。大綱の数値目標を設定する「別添2」資料によれば、「妊娠・出産に関する医学的・科学的に正しい知識についての理解の割合」が2009年には34%であったものを2020年までに70%まで引き上げる、という。この「妊娠・出産に関する医学的・科学的に正しい知識についての理解の割合」とはいったい何か。本稿ではその正体を具体的に追究する。
目次
- スターティング・ファミリーズ調査
- 調査プロセスの問題
- 得点の高い国と低い国
- 調査票の問題
- 妊孕性知識尺度の問題
- 調査結果の政治利用と専門家の責任
図表
- 図6-1. カーディフ妊孕性知識尺度の居住国別集計 (Bunting, Tsibulsky, Boivin 2013: 392 Figure 1)
- 表6-1. 妊孕性知識尺度 (Cardiff Fertility Knowledge Scale: CFKS)〔対訳表〕
文献
- Billari, F. C., A. Goisis, A. C. Liefbroer, R. A. Settersten, A. Aassve, G. Hagestad, and Z. Spader, 2011, "Social age deadlines for the childbearing of women and men". Human Reproduction. 26(3): 616-622. {DOI:10.1093/humrep/deq360}
- Bunting, L., I. Tsibulsky, and J. Boivin, 2013, "Fertility knowledge and beliefs about fertility treatment: Findings from the International Fertility Decision-making Study". Human Reproduction. 28(2): 385-397. {DOI:10.1093/humrep/des402}
- Menken, J., J. Trussell, and U. Larsen, 1986, "Age and infertility". Science. 233: 1389-1394. {DOI:10.1126/science.3755843}
- 岡井崇、綾部琢哉編, 2011, 『標準産科婦人科学 第四版』医学書院. {ISBN:9784260130677}
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- 高橋さきの, 2015, 「「妊娠しやすさ」グラフはいかにして高校保健・副教材になったのか」『SYNODOS』九月一四日 {http://synodos.jp/education/15125}
- 田中重人, 2015b, 「「スターティング・ファミリーズ」調査について」、シンポジウム「高校保健・副教材にみる専門家の倫理と責任: データ改ざんと出産誘導」発表資料(一一月三〇日、東京ウィメンズプラザ) {http://tsigeto.info/15v}
- 田中重人, 2016a, 「「妊娠・出産に関する正しい知識」が意味するもの――プロパガンダのための科学?」『生活経済政策』、二三〇、一三―一八ページ
- 田中重人, 2016b, 「濫用される国際比較調査と日本の世論形成」第六一回数理社会学会大会発表資料(三月一七日、上智大学) {http://hdl.handle.net/10097/64281}
- 田中重人, 2016c, 「日本人は妊娠リテラシーが低い、という神話:社会調査濫用問題の新しい局面」『SYNODOS』六月一日 {http://synodos.jp/science/17194}
- 田渕六郎, 2010, 「調査票の作成」轟亮・杉野勇(編)『入門・社会調査法』法律文化社、七八―九三ページ. {ISBN:9784589032577}
- 内閣府, 2015a, 「少子化社会対策大綱――結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現をめざして」(2015年3月20日閣議決定) {http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/law/taikou2.html}
- 内閣府少子化危機突破タスクフォース, 2013, 「少子化危機突破タスクフォースの開催について」(議事次第・配布資料・提案・対策等文書へのリンク) {http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/taskforce/}
- 日本家族計画協会, 2015, 「学校教育の改善求め要望書提出――本会、日本産婦人科学会など九団体」『家族と健康』七三二号(三月一日)一面 {http://web.archive.org/web/20150826040308/http://www.jfpa.or.jp/paper/main/000430.html}
- 日本産科婦人科学会, 2015, 「不妊の定義の変更について」八月 {http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_20150902.html}
- 野田聖子, 2012, 「妊娠適齢期についての教育及び若い時期に女性が働きながら産み・育てることができる社会基盤の欠如に関する質問主意書」一一月一六日 {http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/181050.htm}
- 文京区, 2014, 『結婚・妊娠・出産・育児に関する意識調査報告書』 {http://www.city.bunkyo.lg.jp/var/rev0/0107/1736/20157289331.pdf}
- 三菱総合研究所, 2013, 「少子高齢社会等調査検討事業報告書(若者の意識調査編)」(厚生労働省の委託調査){http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12605000-Seisakutoukatsukan-Seisakuhyoukakanshitsu/0000022200.pdf}
- メルクセローノ, 2010,「国際的調査結果により、妊娠に関する傾向と不妊治療をためらう原因が明らかに」ニュースリリース 七月八日 {http://www.merckserono.co.jp/cmg.merckserono_jp_2011/ja/images/20100708_release_Fertility_survey_results_tcm2453_121136.pdf}
- 文部科学省, 2015, 『健康な生活を送るために(平成二七年度版)【高校生用】』{http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/08111805.htm}
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