結婚・離婚と性別格差
田中 重人
<http://tsigeto.info/21y>
(東北大学)
大阪府立大学 女性学研究センター 第25期女性学講演会「計量分析から読み解くジェンダーと家族」 (2021-10-23)
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- URI: http://tsigeto.info/21y
- Title: 結婚・離婚と性別格差
- Presenter: 田中 重人 || TANAKA Sigeto
- Conference:
大阪府立大学 女性学研究センター 第25期女性学講演会
- Location: Online
- Date: 2021-10-23
- Language: Japanese
- Short URL:
http://tsigeto.info/21y
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Content
結婚・離婚によって生じる男女間の経済的な格差をとりあげる。分析結果は田中 (2011; 2013; 2021b) の内容を再構成したので、新しく分析したものではない。データや分析の詳細、結果の解釈についてはそちらを参照されたい。
経済的分配と家族
家族は経済的な分配装置としての側面を持つ
- 夫婦間には「生活保持の義務」があるとされる (中川 1928)
- しかしその履行を強制する実効的な規範は弱い
- 関係を解消するとき/した後はどうなるのか?
近年の日本社会における変化
安定した結婚生活を長期にわたってつづける人が減少し、結婚しない人、しても離婚する人が増えた (ただし年齢層によって注目すべき点がちがう)。
NFRJ (全国家族調査) データの特徴
- 対象者年齢層がほぼ30−60代 (未婚・死別が比較的少ない)
- 規模の大きさ (離婚経験者を取り出しての分析が可能)
- おなじ年齢層の男女をおなじ時期に無作為抽出しているので、離婚した (元) 夫婦の双方が、ほぼおなじ確率で標本に入っている (つまり過去に離婚を経験した元夫婦の現在の状況について、夫側からの情報と妻側からの情報が無作為抽出されている) とみなすことができる
等価所得の分析
- 等価所得 (equivalent income):
世帯の所得分配機能を考慮して個人の受け取る所得を推定するための近似的な尺度。通常は、可処分所得を世帯人数の平方根で割る。ただし、NFRJデータに可処分所得の情報はないため、通常の世帯年間収入 (税込み) の額を、同居人数の平方根で割って使う。
等価所得の平均値 (幾何平均) をみると、男性のほうが高いことがわかる (女性のほうが7−10%程度低い)。
結婚の経歴と性別格差
つぎの項目を組み合わせて、「婚姻履歴」を区別する。
- 現在の配偶状況 (「あなたには、現在、結婚相手 (配偶者) がいますか」など)
- 過去の離別・死別の経験 (「あなたは、配偶者との離別や死別を経験していますか」など)
離婚/死別の経験がある場合には、現在無配偶か有配偶 (=再婚) かによって分けるので、6種類 (未婚、初婚継続、離別有配偶、離別無配偶、死別有配偶、死別無配偶) の区分ができる。
婚姻履歴によって等価所得を比較すると、離別・死別経験のある無配偶者の場合に、大きな性別格差があることがわかる (女性のほうが25−40%程度低い)。
一方で、未婚や初婚継続の男女の間には、差はほとんどない。
離婚後の経済格差の規定要因
離婚経験のある回答者だけに限定して重回帰分析をおこなう。等価所得に影響しているのはつぎの4要因:
- 学歴 (高いほど高い)
- 有配偶であること (再婚していると高い)
- 常時雇用を継続していること (結婚や育児のために辞めた経験があると低い) (NFRJ18ではこの項目がないので、調査時点で常時雇用だったかどうかで代用)
- 子供と同居 (同居子がいると低い) (前婚での子供だと推測できる場合に限る)
4つの要因のうち、学歴は結婚前までにほぼ決定しているものであり、再婚は離婚後の話である。
これらに対して、雇用継続と同居子の効果は、離婚前の結婚生活から生じている。
議論
結婚は男女間で所得を再分配する機能を持つので、それが不安定化すると性別格差が拡大する。ただし、未婚者の間では、男女間の経済格差はみられないので、未婚化によって性別格差が拡大したわけではない。結婚しなかった人々の間では性別による経済条件のちがいはあまり出てこないが、いったん結婚したあとで離婚した場合の男女差が大きい。今後も離婚の増加が続くようなら、離婚にともなう経済的な格差は、より重要な研究課題となっていくだろう。
現代日本では、結婚や出産・育児で女性がキャリアを中断することが多い (男性にはそのような行動はほとんど見られない)。また、離婚したあとの子供は、母親が引き取って育てることが多い。これらふたつが、離婚後の等価所得を引き下げる要因として重要である。
キャリアの中断と子供の養育が離婚後の女性の経済状態を悪化させる要因だというのは、とりたてて目新しい知見ではない (永瀬 2004; 濱本 2005; 田宮・四方 2007)。また、離婚後の母子世帯が貧困リスクにさらされているのも周知の事柄であり (篠塚 1992; 神原 2006)、母子世帯はずっと主要な政策対象でありつづけてきた (岩田 2005; 藤原 2005)。にもかかわらず、離婚による格差は依然として大きい。実態がわからなくて放置されてきたわけではなく、問題を知っていて対策を打ってきたにもかかわらず今日の状況になっているということである。
以上のような知見から、つぎのような問いが導き出されることになる (田中 2021a)。
- 私たちは、結婚や離婚 (あるいは広く家族制度) が不平等を生み出すのがよくないことだとは思っていない?
- 伝統的な家族 (=イエ) 制度ではどうだったか?
- それは近代の家族制度で変わったのか? 変わらなかったのか?
文献
- 岩田正美,2005,「政策と貧困」岩田正美・西澤晃彦編『貧困と社会的排除』ミネルヴァ書房,15-41.ISBN: 4623041387
- 神原文子,2006,「母子世帯の多くがなぜ貧困なのか?」澤口恵一・神原文子 (編)『親子、きょうだい、サポートネットワーク』(第2回家族についての全国調査 (NFRJ03) 第2次報告書 2) 日本家族社会学会 全国家族調査委員会,121-136.
<https://nfrj.org/nfrj03_2006_pdf/nfrj03_200602_8.pdf>
- 篠塚英子, 1992, 「母子世帯の貧困をめぐる問題」『日本経済研究』22: 77-118.
- 田中重人, 2008, 「Career, family, and economic risks」, 中井美樹・杉野勇編『2005年SSM調査シリーズ9: ライフコース・ライフスタイルから見た社会階層』2005年SSM調査研究会,21-33.
<http://tsigeto.info/08c>
- 田中重人,2011,「The economic situation of those who have experienced divorce: The gender gap in equivalent household income」田中重人・永井暁子 (編) 『家族と仕事』(第3回家族についての全国調査 (NFRJ08) 第2次報告書 1) 日本家族社会学会 全国家族調査委員会,143-163.
<https://nfrj.org/pdf/nfrj08_201101_9>
- 田中重人, 2013, 「Gender gap in equivalent household income after divorce」 Tanaka Sigeto (編) A quantitative picture of contemporary Japanese families, 東北大学出版会, 321-350. ISBN: 9784861632266
- 田中重人,2021a,「日本学の方法論 (4)」(東北大学文学部「人文社会序論:現代日本学入門」第8回授業)
<http://tsigeto.info/2021/1st/>
- 田中重人,2021b,「離婚経験者の経済状況の性別格差:趨勢と規定要因」松田茂樹・筒井淳也 (編)『夫婦関係』(第4回全国家族調査 (NFRJ18) 第2次報告書 1) 日本家族社会学会 全国家族調査委員会.
<https://nfrj.org/nfrj18publishing.htm>
(掲載予定)
- 田宮遊子・四方理人, 2007, 「母子世帯の仕事と育児」『季刊社会保障研究.』43(3): 219-231.
<http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18624405.pdf>
- 中川善之助, 1928,「親族的扶養義務の本質 (1): 改正案の一批評」『法学新報』38(6): 1-22.
- 永瀬伸子, 2004, 「離別母子家庭の就業と賃金経路」社会政策学会 第108回大会, 2004.5.22, 法政大学.
- 日本労働研究機構, 2003, 『母子世帯の母への就業支援に関する研究』(調査研究報告書 156).
- 濱本知寿香, 2005, 「母子世帯の生活状況とその施策」『季刊社会保障研究』41(2): 96-110.
<http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/13999904.pdf>
- 藤原千沙, 2005, 「ひとり親の就業と階層性」『社会政策学会誌』13: 161-175. DOI: 10.24533/ssgs.13.0_161
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