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田中重人 (東北大学文学部准教授) 2021-01-21

現代日本学各論III/現代日本学社会分析特論I「現代日本における家族と人口」

講義全体のまとめ


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[テーマ] 授業全体について復習とまとめ

社会保障の内容とその担い手

給付金か現物給付か

社会保障の対象がお金で買えるものであれば、必要とする人に必要なだけのお金 (給付金) を渡せばよい。この場合、そのお金をどう使うかは、給付された人次第であり、普通に市場で供給されるものを、必要に応じて買うことになる。

一方で、お金を渡すだけではうまくいかない性質の事柄もある。たとえば病気になったときにどんな治療が適切かを判断するには、医学の専門知識が必要になる。そこで、医師や看護師などの免許を政府が管理し、病院や薬局なども一定の基準を満たさなければ経営できないような法律をつくって医療を供給する仕組みがつくられてきた。

健康保険はこの医療制度の重要な一部である。健康保険であつかえる検査・薬・手術などは政府が決めており、病院などでは、通常、その範囲内で診療活動をおこなう。健康保険に加入している人が、保険で指定されている範囲内での医学的な検査や治療を受けた場合、その費用が保険から支払われる (ただしこの額は100%ではなく、一部は本人が負担)。

このような制度では、給付されるのは、薬の投与や手術の実施など、実際の医療行為であって、給付金が本人に払われるわけではない。こういう社会保障のやりかたを指して「現物給付」という。

費用の負担

給付金にせよ、現物給付にせよ、社会保障には費用がかかるので、それを誰かが負担する必要がある。可能性があるのはつぎの5つ。

まず、社会保障の対象となる本人に、財産や所得があるうちに保険料を払っておいてもらい、それを蓄えておいて、必要になったときにそこから給付を受けるというのが「社会保険」の仕組みである。上記の健康保険は、社会保険の一種である (ただし実際には本人からの保険料だけで運営されているわけではなく、企業や政府もコストを負担している)。

つぎに親族。前近代の社会では、親族組織 (日本の場合、イエ) が社会保障の主体であった。現在の日本でも、親族による私的扶養は社会保障の重要部分を占めてる。特に、夫婦同士と、親が未成年の子を扶養する義務は、特別に強い「生活保持の義務」であるとされている (第4講資料) 。また、「直系血族及び兄弟姉妹」(民法 877条) の範囲では、「生活扶助の義務」がある。これらの「私的扶養」が、政府による公的扶助よりも優先する原則になっている。

企業による雇用も、社会保障の一部である。企業は、労働者に対して、最低賃金以上の賃金を支払わなければならない。仕事上の事故などによるケガや病気 (労働災害) については、その治療期間中は、解雇することができない。それ以外の場合でも、企業が労働者を解雇することができるのは、客観的に合理的な理由があって、解雇が社会通念上相当と認められる場合に限られる。このような法律上の規制に加えて、労働者は組合をつくって企業と交渉し、その環境を改善していく権利がある。

近代化の進んだ社会では、ほとんどの人は労働者として企業に雇われて働くことになるので、そこで安定した雇用と賃金が保障されていることの意味は大きい。また、企業は社会保険の仕組みのなかにも組み込まれており、労働者が加入する健康保険や年金保険の保険料の一部を (賃金とは別に) 支払う。

政府は、社会保障の費用の大きな部分を負担する。公的扶助と社会保険がその2本柱である。

「公的扶助」(たとえば生活保護) では、何らかの理由があって自力では生活できず、また親族による私的扶助も得られないか不十分であるような場合に、給付金が受けられる。

「社会保険」は、これまで見てきたように、本人や企業の負担する保険料に加えて、政府による管理のもとで運営されている。古くは国民健康保険法(1938)、厚生年金保険法(1944)などで始まり、1960年代に国民全員を強制的に何らかの社会保険に加入させる「国民皆保険」が実現。

これら以外に、困窮した人を助ける民間の団体 (NPOなど) がある。生活に困る理由や環境はさまざまなので、一律に公的な制度をつくってもそこからこぼれ落ちるケースが出る。また、申請の手続きが面倒とか、制度自体が分からなくて利用できないということもよくあるので、そういうこともふくめ、現状をよく理解した人による地道な支援活動が必要になる。

実際のケアの負担

社会保障を実際におこなうためには、金銭的な費用のほかに、つぎのような問題がある

日本の社会保障の仕組みは、これらの点に関して、家族への依存が高い。介護保険制度 (2000年〜) は、ある程度、このような具体的なケア労働や意思決定を専門家に任せる仕組みを組み込んでいる。


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