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田中重人 (東北大学文学部准教授)
2021-06-07
大枠としては、「企業特殊的人的資本」が重要であればひとつの企業内で長く勤めてそのなかでキャリアを形成していくのに対して、「一般的人的資本」が重要であれば転職して多くの企業に勤務するキャリアになる可能性が高い、といったことを論じられていればOKです。
そのほか、副次的な論点としてはつぎのようなことがあります。
一般的に、安定した身分が保障されている雇用のことを「正規雇用」、そうでない雇用のことを「非正規雇用」と呼んでいます (法律などで明確な定義があるわけではなく、かなりあいまいな使いかたをされています)。
労働契約は、3年以内の期間を定めて結ぶことができます (有期契約)。契約期間が終われば労働契約も終了するのでその時点で使用者との関係はなくなります (「雇い止め」という)。これは解雇ではないので、法律上規制されていません。
一方で、期間が過ぎたあと、労使双方の合意のうえで契約更新することはできます。「パート」「アルバイト」「非常勤」「臨時職員」などの名称で雇われている場合、契約の実態としては、このような短期契約を繰り返して更新する形態になっていることが多いです。
これらに対して、期間を定めない雇用の場合、定年以外の理由での解雇は厳しく規制されています(→解雇権濫用法理)。
ただし、何度も更新を続けていると、事実上「期間の定めのない」契約として法律上処理されることがありえます。 2012年の法改正で、この原則が労働契約法の条文として盛り込まれ、5年を超えての更新に当たっては、労働者本人からの希望があれば、「期間の定めのない雇用契約」に変更することが義務付けられることになりました。
雇う企業 (派遣元) と命令する企業 (派遣先) がちがうケースを派遣労働といいます。
このような雇用形態は古くから存在していましたが、これを事業としておこなうことは、戦後になって法的に制限されました。この規制が緩和されたのは、1980年代後半。
その後、派遣労働者の数は急速に増加してきている。ただし、比率としては大きいものではなく、雇用者のうちの5%程度です。
派遣契約が存続している間だけ雇用関係が発生するような形態 (登録型) になっていることが多いため、派遣契約も「非正規雇用」にふくめて考えていることが多いです。
キャリアに関する研究は、経営学や産業心理学の分野でおこなわれてきました。
以下では、3番目の意味で「キャリア」ということばを使っています。
これらを獲得していく過程のことを「キャリア形成」「キャリア発達」(career development) と呼びます。キャリア形成には、それまでの段階で何を獲得できているかが重要です (前の段階に到達していないと、つぎの段階には進めないことが多い)。
キャリアをどのように進んでいくかは、家族、学校、企業、政府などによってある程度の道筋がつけられています。しかし、最終的に進む方向を決めるのは本人の意思決定です。つまり、その人自身が自分の能力、適性、欲求、大切にすべき価値などをどのように意識しているかが重要だということになります。キャリア上の意思決定において重要な役割を果たす、その人にとって安定的な判断基準のことを「キャリア・アンカー」(career anchor) といいます (Shein 1991)。
職業だけでなく、人生のあらゆる局面で、長期間にわたって参加するものについて、「キャリア」が存在します。「家族キャリア」「職業キャリア」「学校キャリア」「地域社会キャリア」など。
ある領域でのキャリアを追求すると、他の領域でのキャリアに悪影響を及ぼすことがあります。そういう現象を、キャリア間の「葛藤」(conflict) と呼びます。
キャリア間の葛藤は、一般的に、資源が有限であって分配に優先順位をつけなければならないことから起こります。
- 例: 授業に出ながらアルバイトをすることはむずかしい。どちらを優先するか?
他方、ある領域で獲得したものが他の領域でも使える場合には、葛藤は起こりにくい傾向があります相乗効果が発揮されて、両方ともうまくいくケースもみられます。
- 例: どのような内容の授業とアルバイトの組み合わせであれば、相乗効果が生まれるか?
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