http://tsigeto.info/2022/occ/o220516.html
田中重人 (東北大学文学部教授)
2022-05-16
かなり複雑な話で読み取るのが難しいのですが、ポイントは、
を通じて労働者の権利保護を図る仕組みになっていることです。
労働法における「労働」とは、「使用者」の指揮監督に従って「労務」を提供し、その対価として賃金を受けることをいいます。
統計における「労働」(自営業者の仕事や家族従業者としての無償の活動もふくむ) や、経済学における「労働」(付加価値を生み出す活動一般を指し、家事やボランティアなどの無償労働 (unpaid work) を含むことがある) とは示す範囲が違うので注意してください。
一方が労務を提供し、それに対して他方が賃金を払うという契約を「労働契約」といいます。労働契約に基づいて発生する「労働者」と「使用者」の関係が「労働関係」、労働関係に関連する法の総称が「労働法」です。
労働契約の当事者のうち、労務を提供する側を「労働者」といいます。もう一方の当事者 (労務の提供を受け、賃金を支払う側) と、その代理として労働者の指揮監督に当たる者をあわせて「使用者」といいます。一般的には「会社」「雇用主」などと呼ばれているものを、法律の世界では「使用者」という特殊な用語で呼んでいるので、ここも注意してください。
誰が「労働者」で誰が「使用者」であるか、また当該の関係が労働関係といえるかどうかの区別は法律上非常に重要で、それによって、適用される法律がまったくちがいます。その判断基準としては、仕事を依頼されたときに断れるか (諾否の自由)、時間的拘束の有無 (自分の好きな時間に仕事できるか)、使用者による指揮監督に従う義務があるか (命令を聞かなくても、約束した成果を期限内におさめてさえいればいいか)、本人が働かなければならないか (再委託の可否) などがあります。ただ、これらの境界はあいまいで、判断は微妙なことがよくあります (大内・内藤 2010)。建設作業の請負業者や、運送業者、芸能人、フランチャイズ店経営者などの事例を考えてみてください。
法律上の規定はつぎのようになっています。
- 労働契約法 第2条: この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。 / 2 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。
- 第3条: 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
- 第4条: 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。 / 2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。
- 第6条: 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する
近代資本主義社会の初期には、労働契約は、通常の商取引における契約と同じとみなされていました。当事者同士の契約の自由が原則であり、政府が介入したり、労働組合を結成して集団的に交渉したりすることは禁止されていました。
しかしそれではいろいろとまずいことが起きることがわかってきたため、契約の自由を規制する仕組みが徐々に発達してきました。今日では、労働は特殊な領域とみなされており、「労働法」と呼ばれる独自の法体系が成立しています。
労働基準法の第1章、第2章には、労働者の自由と平等を定める事項が並んでおり、「労働憲章」と呼ばれます。
「賃金」とは、労働の対償として使用者によって支払われるものをいいます。賞与・見舞金・退職金などが「賃金」にあたるかどうかはグレーゾーンですが、おおむね、就業規則に定めがあるかどうかによって判断されます (定めがあれば賃金)。
賃金の支払いに関しては、つぎの原則があります。
最低賃金法に基づき、都道府県別に最低賃金 (時給) が定められています <http://saiteichingin.info> 。これは各都道府県の「最低賃金審議会」が定めるもので、この審議会には、労働者と使用者側から同数の委員が参加します。
この最低賃金が、使用者が支払うべき賃金の最低限度の基準ということになります。
労働者が使用者の指揮命令を受けて業務に従事している時間を「労働時間」といいます。
労働時間は、週に40時間、1日8時間をこえてはならない (労働基準法32条) ことになっています。ただし、職場によって事情があることを考慮して、種々の例外が設けられています。
使用者は、労働時間の途中に、一定の休憩時間を与えなければなりません (労働基準法34条) 。 1日の労働時間が6時間をこえる場合には45分以上、1日の労働時間が8時間をこえる場合には1時間以上というのが最低限度の基準です。
1週間にすくなくとも1日は休日とする必要があります (労働基準法35条)。
使用者は、労働者の過半数代表と 書面での協定 を結び、労働基準監督署に届け出ることによって、時間外あるいは休日の労働を命じることができます (労働基準法36条)。
時間外・休日の労働については、25--35%割増の賃金を支払わなければならないことになっています。
使用者は、6ヶ月以上続けて勤務した労働者に対しては、年間10--20日の有給休暇を与える義務があります。この日数は、勤続期間に応じて長くなります。一方、週に4日以下しか働かないパートタイム労働者については、日数は少なくなります。
「就業規則」とは、賃金・労働時間などの労働条件について、その職場 (事業場) での統一基準、職場のルール、違反があった場合の罰則などについて定めた規則をいいます。ふだん10人以上の労働者を使用している使用者は、就業規則を作成して労働基準監督署に届けなければなりません。
就業規則には、労働時間、賃金、退職などの重要事項を必ず定めます。また、退職手当、臨時の賃金、食費などの労働者負担、安全・衛生、職業訓練、災害補償・懲戒などの規定を定めたい場合には、これらは就業規則に書いておく必要があります。
就業規則の作成・変更にあたっては、使用者は、労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません。過半数を組織する労働組合があれば、その組合と話し合えばよいのですが、そうでない場合は、労働者のなかから投票などの方法によって「過半数代表」を選びます。
作成・変更した就業規則 (過半数代表からの意見書がある場合はそれも) は、各都道府県にある労働基準監督署に届けます。労働基準監督署では、提出された就業規則を点検します。法律の規定などに抵触している部分があれば、変更命令を出します。
就業規則を労働者の不利な方向に変更することは法律上制限されており、不利益を被る労働者の合意を得ていなければ無効になることがあります (その不利益変更が企業の経営上必要であって、労働者の被る不利益がそれほど大きくなければ、効力が認められることもあります:労働契約法 9, 10条)。
労働者には、組合を結成して使用者と団体交渉をおこなう (場合によってはストライキなどの争議手段をとる) 権利があります。「団結権」「団体交渉権」「争議権」を「労働三権」といいます。
- 日本国憲法 28条: 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
労働組合 (labor union / trade union) に関する具体的な事項を定める法律が労働組合法です。
- 労働組合法 第2条: この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。……
- 第6条: 労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。
- 第7条〔不当労働行為の禁止〕: ……労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること……
- 第8条: 使用者は、同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない。
- 第16条: 労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となつた部分は、基準の定めるところによる。……
労働組合と使用者との書面による協定のことを「労働協約」といい、その規定内容は、就業規則や個別の労働契約に優越します。労働協約は、基本的には、組合員だけに適用されるものですが、3/4以上の労働者を対象とする労働協約については、組合に加入していない労働者も対象となります。
つぎのことについて説明せよ:
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