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田中重人 (東北大学文学部教授)
2023-07-03
現代日本学概論I「現代日本における職業」
第9講 ジェンダーと労働
[配布資料PDF版]
- [テーマ]
性別と職業・労働
前回の課題について
e-Stat からのデータ取得とグラフ作成
「労働力調査」基本集計 から、「全都道府県 全国 年次」のデータベースをさがし、つぎの3つの表からデータをとる
e-Stat の「データベース」は使いやすいとはいえないが、さまざまな局面で必要になるので、覚えておくとよい。
グラフ:
CSV (comma-separated value) ファイルなどをダウンロードして、それをスプレッドシートなどで加工する。
- 表1-2-1から「非労働力人口」「完全失業者」「就業者」それぞれの人数がわかる
- 表1-2-2から「自営」「家族従業者」「雇用者」の人数がわかる
- 表1-2-4から、雇用者を「正規」「非正規」にわける。なお、会社等役員が「雇用者」に分類されているので、これをどうあつかうかが問題。今回の資料では、「正規」の雇用者数に統合しているが、異論があるかもしれない。
- 別の表からの数値を組み合わせることになるので、「就業者」「雇用者」など、一致していなければならない数値が一致しているか確認すること。
読み取るべき内容
- 若年層では男女とも非正規雇用が多く、20代前半までは正規雇用比率は男女であまり違わない
- 「M字型」の左側の山と右側の山の内訳のちがい
- 育児休業のあつかいは?
- 非労働力人口
- 中年男性の正規雇用比率の高さ
- 高齢期の男女の違い
解釈の際に注意すべきこと:
- 年齢の効果か、コーホート (世代) の効果か
- ライフイベントの経験率と年齢の対応関係
- 個人の選択と雇用機会の制約
- キャリア間の葛藤
- 性別役割分業
グラフを文章で説明するときの注意点
- どのカテゴリー、どの年齢階級の話なのかを明確に書くこと
- 具体的な数値 (%) を参照しながら書くと、わかりやすくなることが多い
- 積み上げ式グラフの読みかた
復習
- 性別役割分業とは?
- キャリア間の葛藤とは?
- なぜ非正規雇用が選択されるのか?
M字型曲線
現在の日本社会では、女性の労働力率を年齢階級別に描くと、30代後半を底とする曲線となる。このグラフの形がアルファベットのMに似ているので、「M字型」曲線と呼ばれる。
一方、男性の労働力率は、20代後半〜50代まで90%を超えており、また、中年期の落ち込みがない (高原型)。
男女差別の禁止規定とその歴史
1980年代までは、性別によって労働者のあつかいを変えることを禁止する法が確立していなかった。労働基準法に賃金差別禁止の規定はあったものの、事実上機能していなかった。採用の際に男性のみ、女性のみを募集したり、性別によって賃金、昇進機会、定年などに差をつけることは、日本の企業では広くおこなわれており、違法だとはあまり考えられてこなかった。
1960年代以降、このような状態に対する訴訟が多く起こされ、労働のさまざまな面で、性別によって差別することは違法だという判例が確立してきた (浅倉・今野, 1997)。 → 憲法14条の「間接適用」と民法90条
これらの判例で積み重ねられてきた男女差別禁止の原則を法制化したものが男女雇用機会均等法である。
1985年に成立した後、 1997年、2006年に大きい改正が行われて、現在に至っている (山田, 2011)。
- 男女雇用機会均等法 5条:
事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない
- 男女雇用機会均等法 6条:
事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。 / 一 労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練 / 二 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの / 三 労働者の職種及び雇用形態の変更 / 四 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新
- 男女雇用機会均等法 7条:
事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であつて労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。
- 男女雇用機会均等法 8条:
前三条の規定は、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。
性別役割と不平等
夫婦間での分業とその帰結 (田中, 2007):
- 男性 → 稼ぎ手 → 正規フルタイム労働者としての継続的な就業 → 高賃金・安定した雇用
- 女性 → 調整役 → 非正規・パートタイム・就業の中断 → 低賃金・不安定な雇用
このような原因による不平等は「差別」といえるか?
法的・政策的対応としてどのようなことが考えられてきたか
- →
「間接差別」の禁止 (均等法7条)
- →
両立政策あるいはワークライフ・バランス (work-life balance) 政策 (育児休業制度、保育所などの整備)
- →
企業がおこなう「ポジティブ・アクション」
いずれも、現在のところ、成果を上げているとはいいがたい (川口, 2008)。
宿題
「福祉国家」(welfare state) とはどのようなものか。また、福祉国家ではない国家としてはどのような例が考えられるか。
今後の予定
授業 (課題提出および解説) は来週で終了です。
- 7/10:
課題11 (福祉国家) について解説
- 7/14:
レポート草稿提出 (Google Classroom) →コメントを返します
- 7/24:
質問を受ける時間とします。講義はありませんが、授業やレポートに関連する質問・相談がある人は、授業時間に教室あるいはMeet会議室に来てください
- 8/10:
レポート最終版提出 (Google Classroom)
6月に出したレポート計画について、まだコメントを受け取っていない人は、少しお待ちください。
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