remcat: 研究資料集

(TANAKA Sigeto)

日経「新型コロナ「正しく恐れて」 わかってきた特徴と対策:チャートで見る感染再拡大」記事に関する質問書

『日本経済新聞』電子版に掲載された表記記事 https://www.nikkei.com/article/DGXZZO62684590V10C20A8000000/ がいろいろおかしいので、下記の質問書を同社に送りました。
(https://support.nikkei.com のフォームから 2020-08-15 14:47 送信。インシデント番号:#200815-000210)


8/15記事「新型コロナ「正しく恐れて」 わかってきた特徴と対策:チャートで見る感染再拡大」について

この記事は重大な事実誤認を複数ふくんでいます。記事の訂正をお願いいたします。

(1) 「厚生労働省クラスター(感染者集団)対策班が米疾病対策センター(CDC)の科学誌に公表した論文は、1~4月に国内で発生した61のクラスターを分析した。その結果、病院や介護施設を除いて感染を広げた事例はレストランやバー、職場、コンサートや合唱など音楽関連イベント、スポーツジムが多かった。いずれも3密(密接・密集・密閉)の環境で感染が広がった。」という部分について。

この「論文」は Furuse Y, Sando E, Tsuchiya N, Miyahara R, Yasuda I, Ko YK, Saito M, Morimoto K, Imamura T, Shobugawa Y, Nagata S, Jindai K, Imamura T, Sunagawa T, Suzuki M, Nishiura H, Oshitani H "Clusters of coronavirus disease in communities, Japan, January-April 2020". Emerging Infectious Diseases. 26(9) (September 2020) http://doi.org/10.3201/eid2609.202272 のことと思いますが、この論文中では、実際に観測したクラスターについて発生時の環境条件などを分析しているわけではありません。あえていえば、Conlcusions の節で多くのクラスターに共通する一般的特徴について「heavy breathing in close proximity」と述べていますが、これはむしろ「3密」にかかわらずクラスターが発生していることを示しています。

(2) 「電車や飛行機での集団感染事例は聞かない」とある部分について。
上記の Furuse ほかの論文では airplane でのクラスターが報告されています。

(3) 「スポーツジムでは感染が発生するケースはみられなくなった。」とありますが、根拠は何でしょうか。
私が調べたところでは、7月末に可児市で、
http://www.asahi.com/articles/ASN847DS4N83OHGB010.html
8月頭には浜松市で
https://www.fnn.jp/articles/-/73121
それぞれスポーツジムでのクラスター発生が報道されています。

(4) 「窓を開けたり外気を入れ替えるようエアコンを動かしたりすれば、密閉が解消できて集団感染は防げる。」
通常のエアコンには、室内の空気を外気と入れ替える機能はついていないと思います

(5)この記事は、上記の Furuse ほか論文以外にも多数の報告書や研究発表を参照していますが、そのどれについても書誌情報の記載がありません。ここまで述べてきたように、科学的情報を正当に吟味する批判能力をこの記事の執筆者が有しているとは到底思えません。そうでなくても、記事の根拠として論文を参照するのであれば、その書誌情報を明記し、論文を特定して読者がその内容を確認できるようにするのが当然のことです。このルールは厳守していただきたく存じます。