remcat: 研究資料集

(TANAKA Sigeto)

クラスター分類は自由自在?: 分科会 (第12, 19回) 資料にみる数値操作

要旨

「飲食店でのクラスターが多い」という議論の論拠となっている新型コロナウイルス感染症対策分科会第19回会議 (12月23日) 資料のグラフが不審であり、数値が操作されている疑いがある。第12回会議 (10月23日) の資料と比較した結果、クラスター分類の恣意的な変更によって「飲食店」クラスター数を増やし、他のカテゴリーのクラスター数を減らしたものであると推測できる。

緊急事態宣言に向けた分科会の提言

1月5日、新型コロナウイルス感染症対策分科会は第20回会議を持ち回りで開き、「緊急事態宣言についての提言」を取りまとめた。 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/yusikisyakaigi.html#3 から入手できる。「分科会としては、これまでの対策で学んだことを基に、可及的速やかに、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言を発出すべきと考える」とのことである。

この提言は、「これまで学んできたこと」についてつぎのように述べる:

[Ⅳ] これまで学んできたこと
 8月までは接待を伴う飲食店での感染が多かったが、その後、クラスターが多様化し、飲食の場を中心に「感染リスクが高まる「5つの場面」」が明確になってきた。さらにその後、飲酒の有無、時間や場所に関係なく、飲食店以外にも職場や自宅などでの飲み会(いわゆる「宅飲み」)や屋内でのクラブ活動など多様な場での感染が相対的に増えている
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新型コロナウイルス感染症対策分科会 (2021-01-05) 「緊急事態宣言についての提言」 p. 3

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/kinkyujitaisengen_teigen.pdf

そして、実際の対策についてはつぎのように書いている:

[Ⅵ] 緊急事態宣言下に実施すべき具体的な対策
 4月の緊急事態措置をそのまま繰り返すのではなく、上述の「[Ⅳ]これまで学んできたこと」を基に、感染リスクの高い「三つの密」や大声、「感染リスクが高まる「5つの場面」」を中心に、集中的に感染の機会を可及的速やかに低減することが重要である。


【東京都を中心とした首都圏】
(1)飲食の場を中心に上述の感染リスクが高い場面を回避する対策※1
(2)上記(1)の実効性を高めるための環境づくり※2
※1:営業時間短縮の時間の前倒しや要請の徹底など
※2:不要不急の外出・移動の自粛、行政機関や大企業を中心としたテレワーク(極力7割)の徹底、イベント開催要件の強化(例えば、収容率50%など)、大学や職場等における飲み会の自粛、飲食テイクアウトの推奨、大学等におけるクラブ活動での感染防止策の徹底など。
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新型コロナウイルス感染症対策分科会 (2021-01-05) 「緊急事態宣言についての提言」

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/kinkyujitaisengen_teigen.pdf

このように、感染リスクが高い場面を「飲食の場を中心に」回避することが対策の眼目である。外出・移動の自粛やテレワークなども提言しているが、それは補助的な対策という位置づけになっている。

「飲食店」クラスターの状況分析 (12/23)

「飲食の場を中心に」対策を打つというこの結論は、どのような現状分析から導き出されたのだろうか。分科会の前回の会議 (昨年12月23日開催の第12回) 資料に、つぎのようなグラフが出ている。これは、6月以降、2週ごとに、発生したクラスターの数を種類別にプロットしたものである。


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新型コロナウイルス感染症対策分科会 (2020-12-23) 「現在直面する3つの課題」
8枚目

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/cyokumen_3tsunokadai.pdf

赤いラインが「飲食店」で発生したクラスターの数である。このラインは全体的高い位置にあり、特に6-7月には、他の種類のクラスターにくらべて多く、また早くから増加をはじめていた。8月に入ると減少して、「福祉施設」や「企業等」が追いついてくるが、それほど低い水準までは落ちず、11月以降はまた増加している。

グラフの上には「飲食店でのクラスターが多い」と大きく書いてある。飲食店は危険だといいたいようである。実際、このようなグラフをみると、飲食店におけるクラスターが感染拡大の主力であったように見えるだろう。特に6月の増加がほかのカテゴリーよりも速く、ピーク位置も高いので、飲食店の利用が感染拡大につながったことはあきらかなように思える。

10月当時のデータ

しかし、では飲食店の利用を抑制する政策を日本政府がとってきたかというと、そんなことはないわけである。特に、10月以降は、多額の予算をつぎ込んで飲食需要を喚起する Go To EAT キャンペーン を、農林水産省主導でおこなってきた。

Go To EAT キャンペーン実施中の10月に開催された第12回の分科会会議資料には、つぎのようなデータがあった。


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新型コロナウイルス感染症対策分科会 (2020-10-23) 第12回会議資料
63枚目

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona12.pdf

10月は21日分しかないことに注意。また、「クラスター等」の「等」が何を意味しているかは、 https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#july 参照。

再利用しやすいように表のかたちになおし、合計も表示しておく。

表1: 7月以降のクラスター等発生状況の推移

分類 7月 8月 9月 10月(23日まで) 合計
接待を伴う飲食店 47 41 23 17 128
会食 37 37 21 19 114
職場 86 100 80 55 321
学校・教育施設等 42 80 44 25 191
医療・福祉施設等 56 194 79 46 375
その他 53 71 68 31 223
総計 321 523 315 193 1352

このなかで、「会食」というのが、今般、営業時間短縮等で問題になっているカテゴリーなのだが……合計を見ると……別に多くないのでは? というか、むしろ、いちばんすくないカテゴリーが「会食」である。

時期による変動もわかるように、グラフにしてみよう。なお、10月は21日までのデータしかないので、当然、1か月分のデータがフルにある7, 8, 9月よりも数がすくなくなることに留意されたい。

7月以降のクラスター等発生状況の推移 (新型コロナウイルス感染症対策分科会 (2020-10-23) 第12回会議資料 63枚目の表から作成)

「会食」カテゴリー (赤丸-赤線) がいちばん低い位置にあることが、はっきりわかる。また、7月以降増加しておらず、減少傾向である。「職場」「学校・教育施設等」「医療・福祉施設等」「その他」のクラスターは、いずれも「会食」よりも数が多い。また、「学校・教育施設等」「医療・福祉施設等」においては、8月のピークが明瞭にみられる。

どこがちがうのか

このデータは、上記の、12月23日「現在直面する3つの課題」のグラフの7-10月部分とどこがちがうだろうか? 時期区分が一致しないので厳密な比較はやりにくいのだが、ここでは、第12回分科会資料の表の全期間 (7月1日~10月21日) 合計と、第19回分科会「現在直面する3つの課題」の6月29日~10月18日部分の合計を比較してみる。

まず、第19回分科会「現在直面する3つの課題」のグラフから、6月29日~10月18日部分のデータを表にしておく。グラフに定規をあてて測っているので、若干のずれがあるかもしれない。

表2: クラスター発生状況 場所分類別 (第19回分科会「現在直面する3つの課題」による)

分類 6/29-7/12 7/13-7/26 7/27-8/9 8/10-8/23 8/24-9/6 9/7-9/20 9/21-10/4 10/5-10/18 合計
飲食店 27 62 81 61 43 32 33 38 377
企業等 14 33 62 29 35 43 34 46 296
学校・教育施設等 6 20 33 27 13 15 13 20 147
医療機関 10 12 38 43 30 16 15 19 183
福祉施設 5 19 38 62 45 30 14 25 238
運動施設等 0 6 10 5 4 5 6 3 39
その他 7 6 17 7 9 14 13 17 90
合計 69 158 279 234 179 155 128 168 1370

この表2で、この期間内のクラスターを全分類について合計すると、1370である。第12回分科会資料から作成した表1 では合計は1352だったので、18個多い。もっとも、最初と最後の日付がずれているし、調査が進むにしたがってクラスターが新たに同定されることもあるから、これくらいの差は起こりうることであろう。なお、第12回分科会では「クラスター等」となっていたのに対し、第19回分科会では「クラスター」となっており、「等」が落ちているが、これによる実質的なちがいはなさそうである。

「飲食店」クラスターの合計は377である。第12回分科会資料では「外食」クラスターの合計は114だったので、これにくらべるとずいぶん多い。これは、「接待を伴う飲食店」と「外食」を統合して、「飲食店」にしたということなのかもしれない。そうすると、128 + 114 = 242 であり、ちょっと数値が近くなる。

しかし、「接待を伴う飲食店」における感染を、通常の飲食店 (定食屋やレストランや居酒屋など?) といっしょにして「飲食」にともなう「感染リスク」を云々しているのだとしたら、それは大問題である。というのは、「接待を伴う飲食店」はその接客の仕方が通常の飲食店とはちがっており、それゆえに大人数の感染者が生じると考えられてきたからだ。たとえば、昨年4月7日の基本的対処方針等諮問委員会 では、押谷仁委員がつぎのように発言している。

繁華街の接客を伴う飲食店のところがあるのですけれども、これは必ずしも3密が全部そろっていない環境だと思います。人がたくさんいない、けれども1人の人が不特定多数の人とこういう接触をするという形なのです。
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新型インフルエンザ等対策有識者会議 諮問委員会 (2020-04-07) 第2回会議 議事録
p. 12 〔強調は引用者による〕

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon2_2.pdf

つまり、接待を伴う飲食店においては、客同士の間で一度に感染が起きるわけではない。ひとりの従業員が感染し、そのひとりから客にうつることが何度も繰り返される結果として、2次感染がたくさん起きる。これに対して、通常の飲食店においては、多くの場合は客のグループ内で感染が起きるのであり、店員を媒介にして大量の2次感染が起きることはあまりないようである (国立感染症研究所FETPによる報告 「一般的な会食における集団感染事例について」 および 「いわゆる「飲み会」における集団感染事例について」 参照)。また、クラスター1件あたりの感染者数も相当ちがう (https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#july 参照)。今回、通常の飲食店をターゲットにして営業時間短縮などの対処が考えられているのであるから、そこに「接待を伴う飲食店」が半分以上入ったデータを持ってきて危険性を訴えるのは、詐欺みたいなものである。

さらに、「接待を伴う飲食店」を足したとしても、合計は242しかないので、第19回分科会資料の「飲食店」の377のほうが135個多い。率でいうと、約55%大きい計算である。

ほかのカテゴリーにおいても、クラスター数がどうちがうかをみていくと、つぎのような感じである:

表3: クラスター数のちがい

A: 第12回分科会資料 B: 第19回分科会資料 Aのクラスター数 Bのクラスター数 差 (B-A)
接待を伴う飲食店 + 外食 飲食店 242 377 135
職場 企業等 321 296 -25
学校・教育施設等 学校・教育施設等 191 147 -44
医療・福祉施設等 医療機関 + 福祉施設 375 421 46
その他 運動施設等 + その他 223 129 -94
Aの全分類合計 Bの全分類合計 1352 1370 18

「接待を伴う飲食店」と「外食」のほか、「医療機関」「福祉施設」「運動施設等」「その他」についても、カテゴリー統合をおこなってふたつのデータを対応させた。

表3をみると、第12回と第19回の間で、つぎのように数値が増減している:

  • 「その他」「学校・教育施設等」のクラスター数を大きく減らした
  • 「職場」(=「企業等」) のクラスター数をすこし減らした
  • それらの分を、「飲食店」に回して大幅に増やしている
  • 「医療施設」「福祉施設」もかなり増やしている

議論

すでに述べたように、クラスターの総数は大きく変わってはいない。したがって、上記のような数値の変動を招いたのは、分類の変更だということになる。つまり、以前は「その他」や「学校・教育施設等」に分類していたものを、「飲食店」や「医療機関」や「福祉施設」に分類しなおしたのだろう。たとえば、カラオケや映画館などで食事や飲み物を提供していた場合、以前は「その他」としていたものを、すべて「飲食店」に分類することにしたのかもしれない。学生食堂での感染を「学校・教育施設等」から「飲食店」に変更したり、スポーツジム的な施設を「福祉施設」に分類しなおしたりしたかもしれない。

クラスターをどうやって分類しているかということ自体、基準が公表されていないので、ブラックボックスになっている。特定の施設や店舗をどのように分類してグラフを描くかは、目的次第ということになる。外食を奨励する政策を政府が打っている際には「外食」クラスターを少なく見せるデータが、飲食店に対する規制を強める政策をとるときには、「飲食店でのクラスター」を多く見せるデータが出てくるのである。