remcat: 研究資料集

(TANAKA Sigeto)

舘田一博出演 「ハイキュ ヴィロブロック」宣伝動画 (JAPAN magniflex) 書き起こし

下記のツイートで、舘田一博・東邦大学教授 (新型コロナウイルス感染症対策分科会や基本的対処方針等諮問委員会など、政府のCOVID-19対策に深く関わる) が、「世界初のウイルス対策寝具」の広告塔になっていることを知った。

コロナ対策の政府分科会メンバーで日本感染症学会理事長・舘田一博氏とのアドバイザリー契約締結も
世界初のウイルス対策寝具『マニフレックス × ハイキュ ヴィロブロック』11月1日より、店頭取扱いを含む一般販売を開始!
2020年10月27日
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けんもう新型コロナ対策本部 @kenmomd 2021-04-01 23:22 のツイート

https://twitter.com/kenmomd/status/1377627329044832257

こうした行為が無批判で許容されてきたのは、医学業界の闇というべき部分である。また、こうした人々を重用する政府に、まともな政策を期待するほうが無理というものであろう。以下では、本件のどこが問題なのか、具体的に指摘していきたい。

「マニフレックス × ハイキュ ヴィロブロック」とは

リンク対象である https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000065999.html およびそこで紹介されているウェブサイトなどの情報によると、この「ウイルス対策寝具」はつぎのような商品であるらしい。

フラグスポートによる「マニフレックス公式サイト」には、2020年9月25日付でつぎの記事があがっている。

このたび「マニフレックス」は、 東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座教授 の舘田一博(たてだかずひろ)先生と、「マニフレックス」の新製品『マニフレックス × ハイキュ ヴィロブロック』シリーズにおける、メディカルアドバイザー契約を結ばせていただいたことをご報告いたします。
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「マニフレックスが、舘田一博教授とメディカルアドバイザー契約を締結」(2020-09-25)

https://www.magniflex.jp/news/200925.html

舘田がメディカルアドバイザー契約を結んだ相手は、「マニフレックス」だという。これだと、イタリアのMagniflex社と契約を結んだ報告のようにもみえる。しかし、フラグスポートによるプレスリリース https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/65999 (10月27日) では「新型コロナ対策の政府分科会メンバーで日本感染症学会理事長を務め、ウイルス研究における第一人者である舘田一博氏と本製品のメディカルアドバイザー契約を結びました」とあるから、日本の会社であるフラグスポートと、舘田一博との間での契約だとみておいたほうがいいだろう。

東邦大学サイト https://www.toho-u.ac.jp/media/202011.html によれば、『繊維ニュース』に「マニフレックス 抗ウイルスマットレス販売 スイス企業の後加工技術採用」(2020-11-11) という記事が舘田の名前で載ったようである。そのほか、舘田のコメントが載っている広告記事として、つぎのものが確認できる。

現物を確認できていないが、日本経済新聞 (2020-11-18) の広告には、漫画家のヤマザキマリと共に出た ということである。また、読売新聞にも広告が載った という情報がある。

YouTube動画における舘田発言

ネット上を探してみると、本人の積極的な関与があきらかなものとして、YouTube 上の宣伝動画に出演していたことがわかる。

URL
https://www.youtube.com/watch?v=aOW6vdNFde4
作成者
JAPAN magniflex
表題
舘田先生 インタビュー
日付
2020-11-05
再生時間
2分28秒
登場人物
舘田一博 (マニフレックス×ハイキュ ヴィロブロック メディカルアドバイザー)

動画に登場するのは舘田ひとり、音声があるのも舘田のみ。以下に内容を書き起こしておく。

わたくしが、このマニフレックスハイキュー、ヴィロブロックシリーズを推奨させていただく理由は、この寝具シリーズが、ひじょうにおもしろい特徴をもっているからです。


マニフレックス社とハイキュー社が合同で開発したものですけども、その繊維のなかに銀をしっかりとしみこませて、定着させる。それによって、非常に強い抗微生物作用、抗ウイルス作用をしめすということが確認されています。そしてその有効性にかんしましては、オーストラリアのドハーティー研究所、これは非常に権威のある研究所になるわけですけども、そこで、新型コロナウイルス、この用いた実証実験をおこなって、30分間で、このウイルス99.99%を不活化するということが確認されています。


この新型コロナウイルス感染症が流行しているなかで、だれもが外出したときあるいは仕事にいったときに、無自覚、無症状のまま、このウイルスを家のなかにもちこんでしまう、もちかえってしまう、そういった危険性があります。あのたとえばダイヤモンドプリンセス号のなかでの、その感染。そのときにですね、環境のなかからこのウイルスが、ドアノブや受話器、トイレ、そういったところからも出たんですけど、それとともにですね、枕や寝具、その周辺からも集中的に検出されたという、そういったレポートがあります。


この寝具によって、寝室でそれをシャットアウトできるとすれば、お年寄りや赤ちゃん、そして重症化リスクが高いといわれる基礎疾患をおもちのかたがたにとって、なによりの朗報となるにちがいないとかんがえます。人間は、就寝時に汗をかくため、寝具はそもそも病原体が棲息し、そして繁殖しやすい環境になります。新型コロナウイルスはもちろん、インフルエンザウイルスやさまざまなバクテリアにも、すぐれた有効性が確認されているこの寝具シリーズは、いま提唱されている新たな生活様式において、効果的なアイテムのひとつといえるのではないでしょうか。
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JAPAN magniflex (2020-11-05) 「舘田先生 インタビュー」(YouTube動画)

https://www.youtube.com/watch?v=aOW6vdNFde4

開始22秒のところで宣伝用パンフレットらしきものが映る (これについてはあとでとりあげる)。これ以外は、当該商品についての情報はほとんどえられない。2分28秒の動画の大部分は、舘田がしゃべっているところ、商品を触っているところ、各種のイメージ画像に字幕が付いたものが映っている。

疑問点

この動画で舘田がいう「ウイルスを家のなかにもちこんでしまう」とは、どのような事態だろうか? 「無自覚、無症状のまま」といっているので、外出中に手、顔、髪、服、靴、鞄、その他の持ち物にウイルスが付着してしまうようなことを指しているのではない。そのようなケースでは、外出中に体や服や持ち物にウイルスがついてしまうことが問題なのだから、ウイルス対策寝具ではなく、ウイルス対策服・靴・鞄などを開発したほうがいいだろう。

したがって、問題になるのは、同居者のなかに感染した人がいて、それが家屋内で他の人に広がるケースである。しかし、このような場合、おなじ家で起居を共にし、おそらくは食事なども一緒にとっている。寝具を通じての感染だけことさら厳重に防がなければならない理由は考えにくい。

このベッドの上でただ寝てる分には感染し難いのかも知れんけど、ダブルベッドで二人があんな事やこんな事したら関係なく感染リスクは大きくなるよなぁ…w
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RINN(林 康弘)【寸劇の暇人】 @RINN0222 2021-04-02 22:31

https://twitter.com/RINN0222/status/1377977105711960071

Twitterではこのような意見もいただいた。別にベットの上でなくても、同居者なら日常的に室内で近距離での接触をするものである。寝具に残存するウイルスが多少減ったからといって、感染の確率が大きく下がることにはならない。

寝具に特に気を付ける必要があるとしたら、

  • 感染者との接触はない人が
  • 寝具には接触する

ような状況である。たとえば、ホテルで宿泊客が外出している間に従業員がベッドメイクするとか、交換したシーツ等をクリーニングに出すような場合がこれにあたる。ベッドメイク担当者やクリーニング業者は、宿泊客と直接会話する機会がなくても、使用後の寝具等に触れることで感染する危険がある。このような場合であれば、寝具に残存するウイルス量を減少させることが感染防止に重要であることはわかる。寮などでも同様かもしれない。このように、一般家庭ではなく、分業体制で寝具を管理する組織においてこそ、このような商品が必要なのである。

病院でもおなじである。入院患者が感染している場合でも、シーツや枕カバーなどがウイルスの残りにくい素材のものになっていれば、それらを交換したり選択したりする業務で感染するリスクを下げることができる。舘田は 東邦大学医療センター大森病院で感染管理部長をしている そうである。もしこの商品が効果的だと本気で考えているのなら、感染防止のため、この病院ではViroblock製の寝具を採用しているはずだ。同病院の状況をご存じのかたがいらっしゃれば、情報をお寄せくださると幸いである。

エビデンスはどこに?

上記のYouTube宣伝動画では、舘田は、この商品が30分間で新型コロナウイルスの99.99%を不活化することをオーストラリアのドハーティー研究所が確認した、と主張している。しかし、その根拠となる文献は、動画では示していない。

これは不思議なことだ。フラグスポートのウェブページによれば、舘田はつぎのように言っている:

【舘田先生のコメント】
私は医師であり科学者ですのでエビデンス(科学的証拠)に基づいたこと以外お話しできないですが、『マニフレックス×ハイキュ ヴィロブロック』シリーズは、ドハーティー研究所で新型コロナウイルスを使って検証しており、非常に信頼できます
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「マニフレックスが、舘田一博教授とメディカルアドバイザー契約を締結」(2020-09-25)

https://www.magniflex.jp/news/200925.html

このように言っておきながら、「ドハーティー研究所で新型コロナウイルスを使って検証し」たことを示すエビデンスは何も提示しないのである。

パンフレットの表の中身

動画中に唯一出てくるのは、開始22秒あたりからしばらく映る、パンフレットらしきもの。このなかに、数値がならんだ表がみえる。その下には「ピーター・ドハーティー研究所」の文字列もみえる。これが「ドハーティー研究所で新型コロナウイルスを使って検証し」た結果なのだろうか?


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JAPAN magniflex (2020-11-05) 「舘田先生 インタビュー」(YouTube動画) 開始22秒
〔水色の楕円は引用時に付加したもの〕

https://www.youtube.com/watch?v=aOW6vdNFde4

実は、この表は、フラグスポート社サイトに載っているつぎの表とおなじものである。


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フラグスポート「抗菌・抗ウイルス加工マットレス「ハイキュ ヴィロブロック」」(マニフレックス公式サイト)

https://www.magniflex.jp/products/viroblock/

表の下の注釈からわかるとおり、これは、「N95マスクへの加工テスト」の結果であり、実施したのは「HEIQ社」である。ドハーティ研究所が実施したという寝具の実験とは何の関係もない数値を、いかにもそれらしい風情でならべているのだ。

なお、この表の数値のうち、コロナウイルスによるテストだという「229E」は、おそらく https://heiq.com/heiq-viroblock-npj03-test-reports/ からリンクされている https://heiq.com/wp-content/uploads/2020/09/Microbac-798-112-test-report.pdf に載っているものである。これによると、マスクがエアロゾルをどの程度濾過できるかをみるテストであり、しかも使用されたコロナウイルスは旧型 (229E strain) である。つまり、寝具に付着した新型コロナウイルスの残存率の実験とはまったく別の内容である。さらに、試験をおこなったのはアメリカの食品・環境・生命科学等の試験機関 MicroBac であり、テスト対象はFFP2マスク (これはヨーロッパで使われている規格であり、アメリカのN95規格とは別物) である。したがって、「HEIQ社で実施したN95マスクへの加工テスト結果」という説明自体が、そもそもデタラメということになる。

ドハーティ研究所のレポートの所在

さて、 https://www.magniflex.jp/products/viroblock/ には、「ウイルスを吸着して破壊 99.99%減少」と大書してある。その右下に小さい文字で「※注1」とある。これに対応する注は、ページのずっと下のほうにある:

注1)M.J. (2020) Report on "Viral Stability and Persistence of SARS-CoV-2 on Treated Material".Doherty Institute for Infection and Immunity, Australia
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フラグスポート「抗菌・抗ウイルス加工マットレス「ハイキュ ヴィロブロック」」(マニフレックス公式サイト)

https://www.magniflex.jp/products/viroblock/

このレポートを読めば、ドハーティ研究所でおこなわれたという実験の詳細がわかるはずだ。

ところが、このレポートの所在がわからない。通常の文献検索では、対応するレポートはヒットしない。Googleで探すと、Magniflex等の宣伝ページばかりが出てくる。ドハーティ研究所のサイト にも、このようなレポートは載っていない。サイト内検索でも、 HEIQ, Viroblock, Magniflex のキーワードで引き出せる情報はない。

ということで、このレポートに関しては、直接ドハーティ研究所に問いあわせてみた。現在、返信待ちである。結果がわかったら、追記するか新記事を書くかする。

返事きたので追記しました: 2021-04-08

エビデンスなき商品と広告塔になる医師

いずれにせよ、新型コロナウイルスの99.99%を破壊あるいは不活化するというのがウリであるにもかかわらず、それを支える実験の詳細は何も示されていない。これは非常におかしなことである。

このブログでは、以前にも同様の話題をとりあげた。産婦人科のタレント医師、宋美玄がプロデュースしたという触れ込みで通信販売されている体型補正下着「締めキュット」である。

広告のどこにも、この製品の効果をあらわすエビデンス (通常の意味での) は示されていない。効果があることを示した文献があるなら広告に載せないはずはないのだから、エビデンスは何もないにちがいない。つまり、装着中に体型が変わって見えたり尿漏れがおさえられたりするということ自体、根拠のない話なのである。
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田中重人 (2017-09-20) 「ウィメンズヘルスリテラシー協会」とは

https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20170920/whla

この商品については、後に宋自身が、履き心地を試した以外には、製品の性能の検は何もしていなかった ことをあきらかにしている。

「世界初のウイルス対策寝具」についても、とりあえずは同様の態度をとっておいたほうがいいだろう。「30分間で、このウイルス99.99%を不活化する」ということが、ドハーティ研究所の実験で、じゅうぶんな信頼性をもって裏付けられているということはおそらくない。そのような結果が出たのなら、論文として公表されていないはずがない。また、寝具メーカーやその輸入代理店は商品を売り出したいのだから、まともな実験結果であれば、それを宣伝しまくるはずである。実際、FFP2マスクの濾過性能テストに関しては、結果の表を載せるだけなく、テスト機関の発行したレポートをウェブサイトで公表しているわけである。彼らが実験結果を伏せて宣伝活動を展開しているということは、商品を売りさばくには不都合な内容がふくまれているということなのだ。

もし仮に、ドハーティ研究所が秘密裡に作成したレポートがMagniflex社に秘蔵されており、そこには問題のない実験結果が報告されていたのだとしても、彼らの主張にエビデンスがないことに変わりはない。公表されていないものは検討しようがないからだ。エビデンスがあると主張したいのであれば、実験内容を公開し、世界中の専門家がその内容を吟味できる状態に置く必要がある。そのためにもっともよい方法は、学術雑誌に論文を掲載することである。

「『マニフレックス×ハイキュ ヴィロブロック』シリーズは、ドハーティー研究所で新型コロナウイルスを使って検証しており、非常に信頼できます」というのは、現時点では、エビデンスに基づかない与太である。エビデンスに基づいたこと以外話せないのが医師と科学者なのだとすれば、舘田は医師でも科学者でもない。

追記 [2021-04-08]

件のレポートについて、 The Peter Doherty Institute for Infection and Immunity からお返事いただいた。「We do not own the report and it is not publicly accessible」 とのこと (2021-04-08 09:25 JST)

追記2 [2021-04-17]

ドハーティ研究所からの返事ほかについて、記事を書きました:
https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210417/doherty
HeiQ Viroblock 使用「ウイルス対策寝具」についてDoherty研究所他に問い合わせた結果