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ダグラス体制と性別階層
現代日本社会においては、生涯にどれだけの所得をえられるかは性別に大きく左右される。 就職して働きはじめるずっと以前に、生まれたときにあたえられる属性によって、社会のなかでの経済的な位置づけがかなりの程度決まってしまうのだ。
このショッキングな事実を端的なかたちであらわしているのが、幼児が交通事故で死亡した場合の損害賠償をめぐる一九**年の大阪地裁判決である。 交通事故で死亡した二歳の女性の遺族が、運転手を相手どって、損害賠償を請求した裁判である。 請求額の一部には、この事故がなかったとしたら得られたであろう「逸失利益」がふくまれる。 この逸失利益の額を決めるにあたって、遺族は、高校卒業からずっと働きつづけて全労働者の平均賃金を得た場合の金額を推定した()。 しかし判決は、「女性は結婚したらやめるのがふつう」だとして、また男女間に賃金格差があることを理由に、 高校卒業から結婚までのあいだ、同年齢の女性の平均賃金分を得られたとして、逸失利益額を請求額よりかなり低く見積もった()。
この判決には、当時から批判が強かった()。 現実にそのような傾向があるとしても、将来もそうだとは限らないし、 現状を是正していくことが政治的な責務なのではないか。 また、賠償すべきものは「稼得能力」の喪失に対してであって、実際にその稼得能力を発揮するかしないかは問題でない、など。 *批判には、データの使いかたに対するものもあるが、
法解釈としては、このあと、修正されてきている。 一九**年には、女性も定年まで仕事をつづけるものだとして、逸失利益を算定している。 二〇〇*年には、完全に性別を意識しない算定方式が採られた。
図{crfe}は、結婚前にフルタイムで雇用されて働いていた男女のうち、 結婚して子供が生まれるまでフルタイム雇用にのこる者が何%を占めているかを示している。 女性のフルタイム継続率は二〇%程度と低い。 結婚や育児のためにフルタイム雇用をやめることが常態なのである。 これに対して、男性のフルタイム継続率はほとんど一〇〇%である。 フルタイム雇用をやめるケースはときどき例外的にみられるにすぎない。
図{crfe} フルタイム継続率の男女比較
1995年「社会階層と社会移動 (SSM) 調査」による。計算方法は田中(1999)を参照。
問題は今も同じ... 生涯賃金でみた格差
1999年の共同▽法... 格差を政策的になくすべきだとう国民的合意。 それに基づいた具体的な施策。
ちゃんと機能するのか? 分析する枠組みが欠如している。 この論文では、階層論を利用して、この点を考え、展望を提示する。