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ダグラス体制と性別階層

階層論という形式

「階層論」(stratification theory) とは、社会学で不平等問題をあつかう際の、独特の形式を持った議論のことである。 不平等はたまたま偶発的に生まれるわけではなく、社会システムのなかで、 一定の定常的パターンを持って創り出される、いわば構造化されたものである。 不平等を産み出すこの構造をとらえるために、社会学は「階層」ということばを使うのである。

階層論を理解するための主要な概念である「属性」「地位」「社会的資源」の三つをまず紹介しておこう。

属性 (ascription)
個人の生得的な特性のこと
地位 (status)
各個人が社会システムの中で占める一定の位置のこと
社会的資源 (social resources)
人々の欲求の対象でありながら、全員にいきわたらないもの(富永、一九七九、一)

「属性」は、人生の早い段階で決まってしまう、個人にとっては選択の余地のない所与の特性を指す。 性別、出身地、出身家族や親族(特に親)の特性が代表的なものだ。

階層論が問題とする「不平等」というのは、このような属性によって、分配される「社会的資源」に差がついている状態のことである。 「社会的資源」とは、お金やさまざまな物的財のほか、威信・権力・知識・健康・余暇・人間関係など、人々の欲求の対象であって、しかも需要に対して供給が過少なものすべてを指す。

属性と社会的資源の配分との関連を考える際に、「地位」という概念を持ち出すところが階層論のキーポイントである。 人々は社会システムのなかでさまざまな地位を占め、またある地位から別の地位へ移動していく。 このように互いに関連する多元的でダイナミックな地位構造のなかから、 不平等問題を論じるのに適した側面を切り取ってくる。 この際、単一の地位が切り取られるとは限らない。 複数の地位が連鎖することで不平等構造がかたちづくられると考えたほうが説明がうまくいくことも多い。

階層論の基本的な枠組は、図{template}のように整理できる。 階層論では、まず個人に属性があたえられ、その属性によって地位がきまり、それによって他の地位が決まり……最終的に社会的資源の配分が決まるという仕組みで不平等が構造化されていると考えるのである。

図{template} 階層論の枠組
[属性]→[地位]→ … →[地位]→[社会的資源]

図{template}の構成要素は、「属性」「地位」「社会的資源」といった抽象的な概念で書かれていて、 実質的な内容をふくんでいない。 実際の研究においては、これらの構成要素に実質的な内容が代入される。 何が代入されるかは、 どのような不平等を対象にするかによって決まる。 これらのうち、「属性」と「社会的資源」は、研究対象となる不平等問題をさだめたときに決まってしまうのがふつうである。 たとえば本章の研究対象である「性別階層」の場合、「属性」として問題となるのが性別であり、 「社会的資源」として問題になるのが労働による所得である。

階層論の切れ味は、属性と社会的資源との間に入る「地位」をどうとらえるかできまる。

階層論という形式で不平等を論じることのメリットは、政策との関連を考えてみるとよくわかる。 図{template}からわかるように、平等を達成するための方法はいくつもありえる。 属性による地位の配分を平等化するというやりかたで平等を達成することもできる。 地位と地位との結びつきを消すことで平等化をすすめてもよい。 地位に応じて社会的資源を分配するという制度を廃止することによって不平等をなくすこともできる。 平等な社会は何種類もありえるのだ。 平等化のための政策的な議論は、平等社会のこのような複数性を念頭において進めるべきである。 平等化のためにはどのような手段があり、それらはどのような変化を社会にもたらすのか。 それらのうち、もっとも適切なのはどれか。 図{template}はそうした政策的な議論を整序する役割を担っている。


東北大学 / 文学部 / 日本語教育学 / 田中重人 / ダグラス体制と性別階層
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Created:2003-01-18. Updated:2003-10-24. Sorry to be Japanese only (encoded in accordance with MS-Kanji: "Shift JIS").