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田中重人 (東北大学文学部准教授)
2021-11-11
現代日本学各論III/現代日本学社会分析特論I「現代日本における家族と人口」
事実婚 (de facto marriage) についての規定は民法中にはない。明治期以降の家族法に関する学説 (内縁準婚論) と判例によって確立してきたものである。事実婚 (内縁) の場合は、子供の嫡出推定の規定がなく、共同親権を行使できず、相続権もない。しかしそれ以外のことについては、法律婚 (婚姻) と同等の権利が認められている。
婚姻届出制度の普及に時間がかかったため、明治〜昭和初期までは、婚姻届を出さない夫婦が多かった。これに対して、現在では、届出をしない夫婦は非常にすくない。正確な統計はないが、1999年の「第1回全国家族調査」(日本家族社会学会, 2000, pp. 59, 125) によると、夫婦の「姓」が別であるケースは0.5%程度である。
「婚姻届」を出せばよい。
従来は、女性は16歳、男性は18歳から婚姻可能であった (20歳までは親の同意が必要)。成年年齢の18歳への引き下げとそれに伴う法改正により、男女とも18歳にならなければ婚姻できず、親の同意は不要になる (2018年6月13日成立、2022年4月1日施行)。
結婚とは、簡単な手続きによってこれらをまとめて実現するセット・メニューのようなもの。
夫婦間の財産関係については、「夫婦財産契約」(民法 755--759条) を結ぶことができる。この契約は、婚姻前に登記しておかなければならず、また婚姻後には変更できない。実際の契約数はきわめてすくない
夫婦財産契約がなければ、夫婦の財産関係は民法762条にしたがう (法定財産制)。
とはいえ、婚姻費用負担義務、生活保持義務のもとでは、「特有財産」があっても自由に処分できるわけではない。
前回資料参照
それ以外の場合、父親による「認知」(affiliate) が必要
父母が婚姻している場合を「嫡出子」、そうでない場合を「非嫡出子」とよぶ。かつては戸籍上 (および住民基本台帳) の続柄の記載で、嫡出かそうでないかがわかるようになっていたり、親が死亡した場合の子供の相続割合が非嫡出子の場合は嫡出子の半分になっているなど、法律上の格差があったが、現在はそうした規定は廃止されている。
現代日本社会における養子縁組の大部分は、成人を養子とするものである。特別養子縁組と区別して、「普通養子」と呼ばれることがある。
養子縁組は、「離縁」によって解消できる。離縁の手続きは、離婚とほぼ同様で、本人たちが合意して「離縁届」を出せばよい。
いずれの場合も、夫婦で養子縁組をした場合、養子は「嫡出子」としての扱いになる
「親権」(custody) ……未成年の子供の扶養・教育・財産管理をおこなう義務と権利 (民法818条)。
親は未成熟の子に対して「生活保持の義務」を負う。このため、親権のない子供に対しても養育費を負担する義務がある。
離婚の方法には、夫婦の合意で「離婚届」を提出する協議離婚、家庭裁判所での「調停」、裁判所に訴訟を起こす場合の3種類がある。ただし、訴訟を起こすには、その前に調停をおこなわなければならない (「調停前置主義」)。年間の離婚件数の約9割が協議離婚、約9%が調停離婚である (厚生労働省「人口動態統計」2007年による)。
未成年の子供がいる場合、夫婦のどちらが親権を持つかも離婚手続きのなかで決める (民法 766条)。財産分与などの経済的な給付 (離婚給付) は、離婚時に決めても、離婚成立後に決めてもよい。
「離婚届」を役所に提出すればよい。夫婦間に合意があり、書類に不備がなければ、それで離婚が成立する。未成年の子については、夫婦どちらが親権を持つか決め、離婚届に書く必要がある。
離婚届を勝手に出されるのを防ぐため、「不受理申出」をおこなっておくことができる。
夫婦の一方 (または双方) は家庭裁判所に「調停」を申し立てることができる。裁判官1名と調停委員2名 (男女) が調整して、離婚が回避不可能な状態かどうか、離婚するならどのような条件にするかを決める。夫婦が離婚することに合意すれば、それで離婚が成立する。
夫婦が合意しない場合でも、「審判」で離婚を命じることができる (家事審判法24条)。当事者は2週間以内に異議を申し立てることができる (審判は無効になる: 家事審判法25条)。
調停によって離婚が成立しなかったときは、夫婦の一方は、家庭裁判所に離婚の訴訟を提起することができる。
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる (民法770条)。
裁判所による判決に対しては、高等裁判所への控訴、最高裁判所への上告ができる。
裁判による離婚が可能な理由は、上記のように漠然としたものである。個々の裁判において、それぞれの夫婦の事情を考慮しながら判決が下されてきたため、基準は一貫していない。特に、第5項の「婚姻を継続し難い重大な事由」に何をふくめるかについては、判決によってかなりの幅がある。
裁判所は、夫婦関係の破綻について責任のある側 (有責配偶者) からの離婚請求を認めない立場をながらくとってきた (1952年2月19日 最高裁判所判決: 夫の浮気によって婚姻関係継続が困難になったケース)。
これに対して、有責配偶者からの請求であっても、実質的に婚姻が破綻していることを理由に離婚を認める立場を「破綻主義」(no-fault divorce) と呼ぶ。1987年9月2日の最高裁判所判決 (36年間別居し、未成熟子がいないケース) では、きびしい限定をつけた上で有責配偶者からの離婚請求を認めた。このような立場を特に「消極的破綻主義」と呼ぶことがある。
離婚をした者の一方は、相手方に対して「財産分与」を請求することができる (民法768条, 771条)。離婚後に請求してもよい。実際には、離婚時にまとめて処理してしまうことが多い。
財産分与の目的や根拠について、法律は何も規定しない。しかし、学説・判例上、婚姻中に得た財産の清算と、離婚後の生活に関する扶養 (または補償) のふたつの側面をふくむとされている。
分与額の決めかたについても法律上の規定はない。現在では、財産の清算については、特別の事情がないかぎりは半分ずつとする基準が定着してきている。扶養/補償については、離婚後の生活が困窮しそうな場合の最低限の生活保障だけてよいとする立場から、婚姻中の分業によって職業上の地位に差が生じたことについて公平に調整すべきだとする立場まで、かなりの幅がある。また、分与の対象となる「財産」の範囲もひろがってきている (退職金、年金、ブランド、職業資格、稼得能力など)。
そのほか、離婚の原因について一方に責任があるとして、「慰藉料」を請求する場合がある。これを財産分与にふくめる説と、別物であると考える説がある。慰藉料と財産分与の両方をふくめて、離婚の際におこなわれる経済的な給付の全体を「離婚給付」と呼ぶ。また、婚姻中の費用負担などについての清算、子供の養育にかかる費用の請求も同時におこなわれることがある。
未成年の子供がいる場合、離婚後にその子供の親権をどちらがおこなうかを決めなければならない。かつては夫が親権をおこなうケースが多かったが、1960年代後半に逆転し、現在では妻がおこなうケースが8割を占める。裁判で親権を決める場合には、子供の福祉が最優先とされる。具体的な基準としては、生育環境の継続性、子供の意思、母性優先など。
親権をおこなわない場合も、親子関係がなくなるわけではない。したがって、子供に会ったり文通したりする権利 (面接交渉権) があるとされている。また、子供に対する生活保持の義務も残る。特に、経済的な側面から子供の生活費 (いわゆる「養育費」) を負担する義務があるが、実際には離婚の際に養育費の取り決めをおこなわないケースが多く、また取り決めがあってもきちんと支払われないままになってしまうこともある。
内縁・事実婚の解消について、法律上の規定はない。特に届出等を必要とせず、共同生活がなくなったときに解消したとみなされる。実務上は、法律上の婚姻とできるかぎり同様にあつかうべきとされており (内縁準婚論)、財産の分与などを請求することができる。
遺言によって財産の行き先を決めることができる (遺贈)。ただし、遺言は一定の形式を備えていなければ無効 (民法 960条) なので、注意。遺言がある場合でも、兄弟姉妹以外の法定相続人 (次項参照) は、財産全体の 1/3〜1/2 を自分 (たち) が相続する「遺留分」として請求できる。
遺言がない場合、民法の規定にしたがって「法定相続」がおこなわれる
これらの人々を「法定相続人」とよぶ。法定相続人が死亡している場合、その直系卑属が法定相続人となる (代襲相続)。同順位の相続人が複数いる場合は、その間で均等に分ける。ただし、異母/異父の兄弟姉妹の相続分は、父母両方を共通とする者の半分 (民法 900条)。なお、非嫡出子の相続分は嫡出子の半分という規定があったが、これは出生に基づく差別であって憲法14条違反だという判決があり、2013年の法改正で廃止された。
相続分の原則は以上のとおりであるが、これに「特別受益分」を差し引いて「寄与分」を加えた額が計算されることがある。「特別受益分」とは、法定相続人が、相続される人の生前に (または遺言によって) うけた贈与をいう。「寄与分」とは、相続の対象となる財産のうち、相続人の寄与によって形成された部分をいう。
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