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田中重人 (東北大学文学部教授) 2023-06-19

現代日本学概論I「現代日本における職業」

第7講 社会階層と職業


[配布資料PDF版]
[テーマ] 階級・階層論の基本概念

前回課題について

[課題] 橋本健二 (2003)「同・級・生の軌跡」犬塚先 (編)『新しい産業社会学』(改訂版) (有斐閣) の169--194ページを読み、そこで使われている「階級」(class) の分類はどのような考えかたに基づいたものであるか説明せよ。

ポイントはつぎのふたつ:

「階級」が専門用語であることに注意。実際に読むべきなのは180--181頁のみ。

「中間階級」は middle class の訳語なのですが、「中産階級」「中流階級」などと訳されることもあります。


階層とは

人々の欲求の対象である希少な財のことを「社会的資源」 (social resources) といいます。ここで「希少」(scarce) とは、資源が全員に十分に行き渡るほどには存在しない、という意味です。

おなじ社会のなかに、このような社会的資源をたくさん保有している (=欲求を満たしやすい) 立場にいる人と、そうでない人がいます。このような、社会的資源の保有状況による人々の序列または区分のことを、「社会階層」または「階層」といいます。このことばの意味にはあいまいなところがあり、区分された人々のグループそれぞれ (stratum) を指す意味で使う一方で、序列化・区分された状態の全体 (stratification) を指すこともあります。特に後者の意味を強調したい場合には、「階層構造」または「成層」ということもあります。

序列の基準となる「社会的資源」には、いろんなものがありえます。実際の階層研究においては、職業的地位に付随して分配される社会的資源 (賃金や威信など) が重視されてきました。特に研究上の中心になってきたのは、学校教育と職業の領域における競争を支える制度と、その結果として出現する不平等です。また、家族や政府なども、社会的資源の分配をおこなう制度の一部として、階層研究の対象になることがあります。


階級とは

階層研究における重要な議論のひとつが「階級論」です。これは、経済の仕組みという観点から社会的資源の分配状況を説明しようとするもので、「生産手段」を持っているかどうかが重要な基準になっていると考えます。

生産手段 (means of production): 経済活動に使われる手段のうち、労働以外のもの
階級 (class): 生産手段の保有状況によって区分された階層

たとえば工場、機械設備、土地などが代表的な生産手段です。そうしたものを所有して企業を起こす「資本家」と、そこで雇われる「労働者」の間には、入手できる社会的資源 (たとえばお金、情報、権力、社会的評価など) に大きなちがいがある、というのが基本的な発想です。

近代化の前には、小規模な生産手段 (農地、家畜、器具など) を使って小規模な事業を家族で経営して生活を成り立たせるのがふつうでした。近代化が進むにつれて、工場を建てて機械設備をつくり、大勢の労働者を雇って生産をおこなう、大規模な企業が増えてきます。そうした企業の経営者が「資本家」です。従来のような小規模な家族経営で暮らす人々を「中間階級」と呼ぶのですが、そうした経営体は大規模な工場にとってかわられていきます。かつて中間階級だった人々の多くは、自家の事業をあきらめ、新しくできた企業に雇われて働く「労働者」となっていきました。労働者は生産手段を持たず、自分で事業をおこなうわけでもないので、資本家 (の代理である工場長など) の指示に従って働き、それに対して支払われる賃金に依存して生活することになります。このようにして、近代社会においては、社会的資源の保有状況の大きくちがう「資本家階級」「中間階級」「労働者階級」に大きく分かれると考えることができます

ただ、その後、企業が巨大化してくると、企業の中で管理的な地位につく労働者 (課長とか部長とかそれ以上の管理職) が増えていき、それが無視できない数になってきます。こうした人々は、生産手段を持たずに雇われて賃金で生活しているという意味では「労働者」であることにかわりないのですが、資本家から生産手段の運営を任され、部下に対しては指揮監督をおこなう立場になるので、これは別扱いしたほうが実態にあっている (実際、賃金も高いし権力もある)、という発想が出てきます。そこで、こうした人々を「新中間階級」と呼んで、それ以外の「労働者」と区別するようになりました。ここで「中間」といっているのは、資本家と労働者の中間、という意味なのですが、従来「中間階級」と呼ばれていた小規模自営業者 (の家族) と紛らわしいので、従来の「中間階級」は「旧中間階級」と呼び分けるようになっていきます。

というわけで、現在の階級論においては、近代社会はつぎの4つの階級に分かれるのが基本的なかたちである、と考えています。

資本家階級 (capitalist class):
旧中間階級 (old middle class):
労働者階級 (working class):
新中間階級 (new middle class):

宿題

出身階層と地位達成について、つぎの問に答えよ:

  1. 近代化した社会において、子供の階層が親の階層によって規定される社会的な仕組みには、どのようなものがあると考えられるか。
  2. 現代の日本社会においては、それらのうちでどのような仕組みが優勢か。

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