1・4 人は賃金だけで動かない
賃金だけが働くことの報酬でなく、労働条件や、先行きの見通しや、人間関係などが総合的に評価されるだろうことは想像に難くない。
ところで、問題は、「賃金だけで動かない」ではなくて、「賃金だけでは動けない」というところにあろう。つまり、賃金のより高い所へ転職しようとしても、実際には難しい。 その理由は、労働者を募集していない企業へ入ることはできないからだ。競争があるということは、すでに雇われている者を入れ替えることになる。これは実際に起こりそうもない。たとえ現在いる者より有能な応募者がいたとしても、空席は埋めても入れ替えをすることはまずないだうう。
確実にありそうなことは、定年や退職で辞めた者を補うときに、望ましいタイプの労働者を選ぶことができる。
これは、終身雇用制の下の日本の企業のみならず、広く見られる慣行である。もちろん、これは労働力の質が外部の方が良いか、質は同じで賃金が安いかの場合に限られる。内部の労働力の方が良質であれば、入れ替える動機はないからである。
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p. 45-46
佐野 陽子. 企業内労働市場 (有斐閣選書). 有斐閣. {1989:4641180946}
Created: 2006-12-26. Updated: 2006-12-26.
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