改ざんグラフを持ち込んだ吉村泰典内閣官房参与と関連専門9団体への質問状
田中 重人
<http://tsigeto.info/15w>
(東北大学)
シンポジウム「高校保健・副教材にみる専門家の倫理と責任―データ改ざんと出産誘導」 (2015-11-30)
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- URI: http://www.sal.tohoku.ac.jp/~tsigeto/15w.html
- Title: 改ざんグラフを持ち込んだ吉村泰典内閣官房参与と関連専門9団体への質問状
- Presenter: 田中 重人
- Conference: シンポジウム「高校保健・副教材にみる専門家の倫理と責任―データ改ざんと出産誘導」
- Location: 東京ウィメンズプラザ
- Date: 2015-11-30 18:30-
- Language: Japanese
- Short URL:
http://tsigeto.info/15w
- Blog article:
http://b.tsigeto.info/305
Files
研究倫理の重要性
日本学術振興会等によるガイドライン (別紙資料1−3)
- 社会からの信頼と負託
- 研究成果の正確さや正当性を (不確実性や見解の多様性をふくめ) 示す努力義務
- 不正に対応する仕組み
- 学界内相互批判の重要性
研究倫理は、学界内部の単なるローカルルールではなく、
社会との契約
である。
何が問題か
質問状の趣旨と内容
「妊娠のしやすさ」グラフの改竄は8月末に発覚したことであるが、3か月近く経過しても、事実関係の説明すらおこなわれていない。本来なら各団体が自発的に調査委員会を設けて調べるべき事態である。
そこで、質問状を出すことにした。対象はつぎのとおり:
- 内閣府への「学校における健康教育の改善に関する要望書」(日本家族計画協会 2015) に参加した9団体
- 吉村泰典内閣官房参与 (慶應義塾大学名誉教授、元日本産科婦人科学会理事長、元日本生殖医学会理事長)
- 北村邦夫氏 (日本家族計画協会理事長):副教材の編集協力者
質問状の内容:
- 事実関係
- 一群の文献 (O'Connor ほか 1998; Wood 1989; Bendel+Hua 1978) について (田中 2015c)
- 研究不正に対する意識と制度
類似の事例
副教材に載った改竄グラフとその元となった O'Connor ほか (1998) のグラフ (あるいは Wood (1989, 1994) か Bendel and Hua (1978) のグラフ)
の産婦人科での使用例は、現在のところ、吉村氏と齊藤英和氏 (国立成育医療研究センター) による2013年以降のものしかみつかっていない
(高橋 2015; 田中 2015a)。
- →
「長年使われてきた」というのは出まかせか?
インターネットからのコピーデータを使った調査の事例 (別紙資料5): 辻本ほか (2013)
- 年間(12か月)の妊娠確率: 86% → 72% → 63% → 52% → 36% → 5% → 0%
- 1か月あたり確率になおすと: 15% → 12% → 8% → 6% → 3.6% → 0.4% → 0%
この件と副教材改竄グラフとの共通点:
- 数値の偽装:出典としてあがっている文献 (Rosenthal 2002, p.5) の「Likelihood of Getting Pregnant」の数値 (別紙資料4) が別物に置き換えられている
- ラベルの偽装:そもそも Rosenthal (2002, p.5) が掲げている数値は、歴史人口学データによる年齢別婚姻出生力の平均値 (Coale + Trussell 1974, p. 188) を相対値に変換したものであって、「妊娠確率」ではない。
- 数値の操作の結果、20代前半から40代前半まで直線的に受胎確率が低下していくかのようなグラフがつくられている
この出所不明グラフの30代までの数値 (86%, 72%, 63%, 52%) は Carcio (1998, p. 39) に載っている (別紙資料6)。ここから、遅くとも20年前には、これらの数値が出回っていたことがわかる。ただし出典はやはり不明である。
Carcio (1998, p. 38) には「It is well documented that there is diminished fecundity with increasing age (Table 2-5)」とあるのみ。
研究倫理違反を放っておくと何が起きるか
- 間違った知識に基づく間違った意思決定
- 研究対象の人権侵害
- 権力との結託(「少子化対策」にお墨付きをあたえる学会)
対抗するための注意事項
- データが隠蔽されていないか (出典、概念説明、データ説明)
- 研究過程の具体的想像 (具体的な質問文は? / 現代日本で可能な実験か?)
- 元データにあたる →オープンアクセスの重要性、図書館の活用
- 契約を守らない相手への対処
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