2010年代日本における「卵子の老化」キャンペーンと非科学的視覚表象
田中 重人
<http://tsigeto.info>
(東北大学)
Project "Unscientific Knowledge and the Egg Aging Panic" Research Report II (2018-08-30)
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- Title: 2010年代日本における「卵子の老化」キャンペーンと非科学的視覚表象
- Author: 田中 重人
- Series: Project "Unscientific Knowledge and the Egg Aging Panic" Research Report
- Volume: 2
- Pages: 12
- Date: 2018-08-30
- Language: JPN
- ISBN:
978-4-9910316-1-8
- URI:
http://tsigeto.info/18l
- Blog entry:
http://d.hatena.ne.jp/remcat/20180907
- ReMCat:
{2018:9784991031618}
要約
近年の日本では、妊娠・出産に関する大量の情報があふれている。その多くは、産科・婦人科・生殖医学の専門家やその団体がつくり、マスメディアに流れるものであり、結婚・出産を促進する政策を科学的に正当化する根拠として使われてきた。
「卵子の老化」はこの政治的現象を理解するためのキーワードである。このことばは、元々は、減数分裂途中で長い時間が経過したために雌性生殖細胞が変性する生物学的現象を指していた。しかし人口に膾炙するにともなってその意味が拡大し、今日では女性の加齢にともなう妊孕力低下とその背後にある生物学的な仕組みの全体を包含するマジックワードとなっている。
メディアによるキャンペーンが「卵子の老化」をとりあげるなかで、誤った情報が、いかにも科学的な知識であるかのような装いを持って書籍、雑誌、テレビ、ウエブサイトなどにあらわれた。それらの多くは若者の身体に関する自己認識を書きなおすこと、そしてそれを通じて彼らの性行動と家族形成に影響を与えることを狙っている。身体に関する意思決定に誤情報をもって介入することは身体の自由に対する侵害とみなされる。また、専門家が誤情報を流布させているという事実は、医学・医療への信頼を毀損し、保健医療システムを危機にさらすおそれがある。
研究プロジェクト“非科学的知識の生産・流通と「卵子の老化」パニック”では、学術的文献と一般向け文献の両方を収集し、それらの分析を通じて「卵子の老化」キャンペーンの成立した社会的諸条件とその結果をあきらかにすることを目指している。この報告書では、キャンペーンに登場した非科学的なグラフのいくつかをとりあげ、それらがどのようにつくられ、日本社会に広がって世論と政策に影響を与えたかを解説する。
目次
(冊子内容を紹介するブログ記事
にリンクしています)
図
- 図1: IFDMSによるカーディフ妊孕性知識尺度 (CFKS) の国・男女別平均値
- 図2: 年齢の効果を誇張した「卵子の数」のグラフ
- 図3: 女性の年齢と生殖細胞の数
- 図4: 「卵細胞の数」の捏造グラフ
- 図5: 「卵胞数」の合成グラフ
- 図6: 専門家団体の要望書で使われた「妊孕力」グラフ
- 図7: フッター派コミュニティの年齢別婚姻内出生率
- 図8: 「Likelihood of getting pregnant」曲線
- 図9: 日本生殖医学会が抜き出した4本の曲線
- 図10: 自然出生力集団10個の年齢別婚姻内出生率
- 図11: 日毎妊娠確率 (Dunsonほか [48] による推定)
- 図12: ヨーロッパ7箇所の家族計画センターでの調査(1992-1996年) に基づく日毎妊娠確率の推定値
- 図13: 「女性の妊娠適齢期」の手書き風グラフ
表
- 表1: "Probability of pregnancy with advancing age" (Carcio, Management of the Infertile Woman [39], p. 39)
- 表2: "Fertility through the ages" (Rosenthal, The Fertility Sourcebook, 2nd ed. [40], p. 5)
謝辞
この研究プロジェクトは 日本学術振興会科学研究費補助金の補助を受けています (KAKENHI #17K02069; 研究代表者: 田中重人 東北大学准教授; 期間: 2017-2019年度)。
このプロジェクトは、文献収集に加えて、Twitter などのソーシャルメディアからも情報を得ています。また、2015年9月以降、改ざんグラフが載った高等学校副教材 (6、10 ページ参照) への抗議をおこなってきた「高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会」の活動に依拠している部分もあります。
生殖に関する非科学的知識利用の歴史や、妊娠・出産に関する新しい言説の発生など、プロジェクトに関連する情報をご存知でしたら、お知らせいただけると幸いです。
文献
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