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http://tsigeto.info/2020/occ/o200511.html
田中重人 (東北大学文学部准教授) 2020-05-11

現代日本学概論I「現代日本における職業」

第1講 労働統計(1) さまざまな働きかた


[配布資料PDF版]
[テーマ] 労働力調査について

宿題について

5点満点で採点しています。特に気になったことがある場合だけコメントを返しています。

気を付けてほしいこと:

「労働力人口」「完全失業率」の定義

[解答例] 「就業者」人口と「完全失業者」人口をあわせたものが「労働力人口」である。「就業者」とは、収入をともなう仕事を調査週間中にした者 (従業者) と、仕事はしていなかったが賃金を受けとっていた雇用者と仕事を休み始めてから30日未満の自営業者 (休業者) の合計。「完全失業者」とは、(1) 就業者ではなく、(2) 調査週間中に,求職活動をしていて、(3) 仕事がみつかればすぐ働ける、の3条件を満たすものをいう。完全失業者の人数を労働力人口で割ったものが「完全失業率」である。

労働統計でいう「労働」(labor) は、基本的には「収入をともなう仕事」を指します。ただし、家族従業者は例外的に、無給でも「就業者」にカウントします。「労働力調査」が始まった当時は、無給の家族従業者は、特に農林漁業で大きな比率を占めていました。

基本的なことは、 http://www.stat.go.jp/data/roudou/pdf/hndbk02.pdf の5頁の図をみてください。上の解答例には例外事項がいろいろあります。無給の家族従業者のあつかいのほか、育児休業中で雇用保険からの給付金 (これは賃金ではない) を受け取ってる場合も「休業者」にふくめる、過去の求職活動の結果を待っていただけの場合も「求職活動」とみなす、など。

2018年から、「完全失業者」の定義をすこしゆるめた「失業者」概念が創られ、詳細集計では「完全失業者」のかわりにこちらの「失業者」人口が使われています。ただし、基本集計のほうは従前のままで、一般に「労働力人口」「失業率」として発表されているのはこちらのほうなので、その意味では定義の変更はされていないことになります。

「労働力人口」「完全失業率」の経済政策における意味

[解答例] 「労働力人口」「完全失業率」はどちらも労働供給の状態をあらわす指標であり、マクロ経済的な政策をきめるのに必要である。「労働力人口」は、働ける (その意思のある) 人数の総計であり、労働供給の上限をあたえる。労働力人口を短期間に変動させることはむずかしいので、長期的な見通しを立てて政策を考えるのがふつう。「完全失業率」は、利用可能な労働力人口のうちで実際には働いていない (しかし仕事さえあればすぐに働ける) 人の比率なので、労働供給を短期的に拡大する余地がどれくらい残っているかを示す。完全失業率を減らしてゼロに近い状態 (=完全雇用) を実現し、労働供給の制約の中での最大の成長を図ることが、経済政策の目標のひとつである。
「国民所得」(national income)、「国内総生産」(GDP)、「潜在成長率」(potential growth rate)、「自然成長率」(natural growth rate)、「完全雇用」(full employment)、「摩擦的失業」(frictional unemployment)、「構造的失業」(structural unemployment)、「自然失業率」(natural unemployment rate)

労働に関する調査は、特に第1次世界大戦のあと設立された国際労働機関 (ILO) の活動で、各国で広がっていきます。このときの主要な関心事項は、貧困の防止と労働者の権利保障でした。

その後の大恐慌に対する経済政策や、近代的なマクロ経済学 (いわゆるケインズ派) の発展にともない、正確な調査データに基づいて経済政策を調整するという発想が主流になっていきます。「労働力調査」が始まった1940年代後半は、経済学において経済成長の理論が流行していた時期でもあります。 (Harrod と Domar が独立に発案した経済成長モデルをそれぞれ発表したのがこのころ)。

調査実施方法と最近30年間の変更点

[解答例] 下記「調査の特徴」を参照。30年前からの変化としては、光学読み取り用紙への変更 (1992年)、「特定調査票」の導入 (2002年)、統計法改正にともない「基幹統計」に指定 (2007年)、「未活用労働」項目の導入 (2018年) などがある

「労働力調査」に関する情報源

オンラインの情報

本来であれば、総務省統計局から毎年発行される『労働力調査年報』の解説部分を見ることが望ましい。しかし今は図書館が使えないため、オンラインでみられる資料を何とかして探すことになります。調査結果のデータは、「政府統計の総合窓口」 (http://www.e-stat.go.jp) にもあるのですが、ここにはまとまった資料はないので、調査主体である総務省統計局のサイト http://www.stat.go.jp をみるのがよいでしょう。

東北大学附属図書館における統計資料の所在

図書館での統計資料は1か所にはかたまっておらず、分散しているので、探すのに慣れがいります。

「労働力調査」の場合、最近30年くらいの報告書は「経済統計」(本館2号館1階) に配架されています。それより古いものは、ふつうの雑誌とおなじあつかいになっています。本館2号館2階で「ROD...」のあたりを探してください。


「労働力調査」について

組織と歴史

「総務省統計局」は日本政府の統計関連の事柄を中心的に取りあつかっている組織です。 1881年に太政官統計院が設立され、それ以降、内閣統計局、総理府統計局、総務省統計局などを経て、2001年の省庁再編で総務省所属になっています。 http://www.stat.go.jp/library/meiji150/nenpyo/ など参照。

「労働力調査」は労働力、雇用、失業などの状況を迅速にとらえるための調査として1946年9月に開始。戦後改革の一環で、アメリカ合衆国の Monthly Report on Labor Force を参考に当初設計されました。約1年間は試験期間で、1947年7月からが本格的な調査開始。 1950年には「統計法」(1947年法律第18号) に基づく「指定統計」となります。

その後、時代にあわせて変更を加えながらも、長期にわたる比較ができるよう、継続性を優先して毎月の調査が続いてきています。

調査の特徴

基礎調査票と特定調査票

労働力調査の調査票は、「基礎調査票」と「特定調査票」のふたつがあります。前者はもとからの「労働力調査」を継続しているものです。後者はかつて「労働力調査臨時調査」「労働力調査特別調査」としておこなわれていたものを「労働力調査」に統合したものです (2002年から)。「基礎調査票」の質問は、労働に関する基本的な項目に絞り、長期的な比較のために内容を維持していきています。一方、「特定調査票」は、時代の変化に応じてときどき内容を切り替えてきています (特に非正規雇用や周辺的な労働などの項目)

2013年に大きな変更があり、以前は「特定調査」に含まれていた非正規雇用の分類や、労働契約期間に関する質問などが「基礎調査」に移動しました。

結果の公表

毎月の調査について報告書 (月報) が刊行されます。 1年分 (1月から12月) についての平均をまとめた報告書 (年報) は、年1回の刊行です。いずれも、標本による集計結果そのものではなく、母集団についての人数を推計した結果が表示されています。

集計結果は「基本集計」と「詳細集計」にわかれています。おおむね、前者が「基礎調査票」、後者が「特定調査票」の内容の集計です。

また、これらの集計結果の電子ファイルを「政府統計の総合窓口」 (http://www.e-stat.go.jp) からダウンロードできます。


練習問題

調査事項やその説明について

http://www.stat.go.jp/data/roudou/8.html から、「労働力調査」の「基礎調査票」「特定調査票」およびそれらの記入上の注意事項のPDFファイルを見て、自分で回答してみましょう。

どこが答えにくいでしょうか? 改善する余地があるとしたらどこでしょうか?

調査で使われている用語について

「基礎調査票」裏面のいちばん上に「勤めか自営かの別及び勤め先における呼称」の質問があります。これについて、つぎのことを考えてみてください。

http://www.stat.go.jp/data/roudou/pdf/hndbk05.pdf の36頁以降など参照。

提出の必要はありませんが、どうしても出したい場合は、下記の「宿題」の最後に追加で書いておいてください。


宿題

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」について、2019年に発覚したのはどのような問題か。また、それはなぜ問題だと考えられるか。

(提出期限は金曜日 12:00、提出先は Google Classroom)


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