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田中重人 (東北大学文学部准教授)
2020-07-06
現代日本学概論I「現代日本における職業」
第8講 社会移動と職業・教育
[配布資料PDF版]
- [テーマ]
不平等とその社会的再生産
前回課題について
- [課題]
出身階層と地位達成について、つぎの問に答えよ: (1) 近代化した社会において、子供の階層が親の階層によって規定される社会的な仕組みには、どのようなものがあると考えられるか; (2) 現代の日本社会においては、それらのうちでどのような仕組みが優勢か
解答のポイント:
- (1) は「社会的な仕組み」の問題であるので、単に親子の間に類似性があるという事実を指摘するのではなく、なぜそうなるかということを、社会的な制度 (たとえば家族、学校など) の観点から説明すること
- 前回とりあげた「資本家階級」「旧中間階級」「労働者階級」「新中間階級」のようにわけたとき、どの階級においては何が必要か、それはどのようにすれば手に入るか、を考えていくとよい
- それ以外のさまざまな社会的資源に注目して「階層」を考えてもよい。
- (2) は、「優勢」というのがどういう意味であるかを考えてみること (多数の人に影響をあたえる? 上層/下層の人が大きな影響を受ける? 正当な仕組みとみなされている? など)
具体的な「仕組み」としては、たとえば相続 (家業をふくむ)、家庭内での教育、家庭外の教育への親からの出費、家庭の文化的背景と学校や会社の文化との親和性 (言語や宗教など)、地域移動の困難さなどがあります。
より根本的なレベルでの仕組みの問題としては、私有財産制、親による子供の養育義務、学校教育と結びついた労働市場、人的ネットワークと情報の偏在、公用言語、社会保障やセーフティーネットなど、さまざまな事柄を考えることができます。
階層研究のさまざまな視点
階級3区分 (または4区分) は社会科学においては古典的なものですが、実際の社会現象を説明するにはいろいろと足りないことが分かってきました
- 所有と経営の分離 (株式会社の株主と雇われ経営者)
- 個人単位か、家族 (あるいは世帯・夫婦・親子) 単位か
- キャリア (=世代内社会移動) をどう捉えるか? →おなじ人がいろいろな階層を移動するケースをどうあつかうか
- どのような社会的資源に注目するかによって、異なる「階層」が導出される →多元的階層
社会移動における開放性と閉鎖性
不平等に関する研究の多くは、「機会の不平等」(inequality of opportunity) という規範的問題設定から出発しています。これは、個人に対する社会的資源の分配が、その個人のコントロールできない属性に影響されている程度を意味する概念です。
- ※
ただし、「機会の平等」「機会の不平等」は分野・文脈によってさまざまな意味で使われるので、要注意
この問題に接近するために、「世代間社会移動」(intergenerational social mobility) の研究が行われてきました。これは、子供の階層が親の階層とどの程度関連しているかを実証的に捉えるとともに、それを支えている社会の仕組みを特定していくものです (前々回課題の資料参照)。
社会移動の閉鎖性をもたらす要因
近代社会における階層の再生産モデル:
出身 → 教育 → 職業 → ……
近代化した社会では、どこでもほぼ類似の構造がみられることがわかっています。この再生産をささえる根本的な仕組みとしては、つぎのようなことが複合して作用していると考えられています。
- 直接的な世襲
- 財産相続
- 経済的要因による進学の格差
- 家族を通じた学歴の再生産 (吉川, 2006, p. 107) → この部分にあてはまる人口が多いことが日本社会の特徴か
宿題
- 総務省統計局「労働力調査」(2019年の年間平均値) によって、男女別に、年齢階級別の就業状況のグラフを作成せよ。ただし、政府統計の総合窓口 e-Stat
(https://www.e-stat.go.jp)
のデータを使い、つぎの情報が区別できるようにすること: (a) 非労働力人口 (b) 完全失業者 (c) 雇用以外の就業者 (d) 正規雇用 (e) 非正規雇用
- そのグラフから読み取れることを解説せよ
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