結婚・離婚と性別格差
田中 重人
<http://tsigeto.info/21y>
(東北大学)
大阪府立大学 女性学研究センター 第25期女性学講演会「計量分析から読み解くジェンダーと家族」 (2021-10-23)
[Handout PDF (0.1 MB)]
[Slides PDF (1 MB)]
[著者への問い合わせ]
[リンク]
- URI: http://tsigeto.info/21y
- Title: 結婚・離婚と性別格差
- Presenter: 田中 重人 || TANAKA Sigeto
- Conference:
大阪府立大学 女性学研究センター 第25期女性学講演会
- Location: Online
- Date: 2021-10-23
- Language: Japanese
- Short URL:
http://tsigeto.info/21y
Files
Content
結婚・離婚によって生じる男女間の経済的な格差をとりあげる。分析結果は田中 (2011; 2013; 2021b) の内容を再構成したので、新しく分析したものではない。データや分析の詳細、結果の解釈についてはそちらを参照されたい。
以下、スライド用アウトライン
//から始まる行はコメントあるいは発言内容です。スライドには出ません。
[スライド (PDF 2MB)]
はじめに 【6分】
略歴
- 大阪大学人間科学研究科 社会学専攻 博士後期課程 退学 (1997年)
- 大阪大学人間科学研究科 社会学専攻 助手 (1997−2001年)
- 東北大学文学研究科 言語科学専攻 日本語教育学専攻分野 (2001−2019年)
- 東北大学文学研究科 日本学専攻 現代日本学専攻分野 (2019年--)
共同研究など (調査以外)
- 日本社会学会 データベース委員会 (2001−2012)
- 東北大学法学研究科 21世紀COE / グローバルCOEプログラム (2003−2013)
- 東北大学「社会にインパクトある研究」(E-1 心に豊かさを灯す社会の創造) (2015年--)
// 人々の行動や社会制度が知識・情報・価値・規範などにどう規定され、変化しているかという問題関心
発表のアウトライン
- 家族と不平等
- 近年の離婚の増加
- データ分析と結果
- 議論
経済的分配と家族 【7分】
経済的分配装置としての家族
// 夫婦間の「生活保持の義務」
「生活保持の義務」は,最後の一片の肉,一粒の米までをも分け食らふべき義務
中川善之助 (1928→1976)「親族的扶養義務の本質」『法学セミナー』253: 190−207.
法は家庭に入らず
参議院法制局 (2020)「法格言」
<https://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column067.htm>
関係を解消するとき/した後はどうなるのか?
近年の日本社会における変化
// 国勢調査2015からの年齢別配偶状況のグラフ
// 安定した結婚生活を長期にわたってつづける人が減少し、結婚しない人、しても離婚する人が増加
// ただし年齢層によって注目すべき点がちがう
// NFRJ対象年齢層の特徴
データの特徴 【4分】
NFRJとは
日本家族社会学会「全国家族調査」(家族についての全国調査)
- NFRJ98 (1999年実施)
- NFRJ03 (2004 〃 )
- NFRJ08 (2009 〃 )
- NFRJ18 (2019 〃 )
http://nfrj.ofg
// 講演会趣旨説明参照
// 継続調査であるが、質問項目はかなり変更されている
データの特徴
- 規模の大きさ
- 対象者: 28−72歳 (未婚・死別が少ない)
// 第1回、第2回は73−78歳もふくむが、今回は72歳までに統一した。
// 後半では離婚経験者だけの分析。
// おなじ年齢層の男女をおなじ時期に無作為抽出している
// →離婚した (元) 夫婦の双方が、ほぼおなじ確率で標本に入っている
// 離婚を経験した元夫婦の現在の状況について、夫側からの情報と妻側からの情報を無作為抽出した、とみなすことができる
// (図で説明)
等価所得の分析 【4分】
等価所得とは
equivalent income
世帯年間収入 / √同居人数
- ※
通常は可処分所得と世帯人数であるが……
// 税額など詳しく聞くのは難しい。
// 国民生活基礎調査でも結局サンプルの半分は欠損値
等価所得の男女差
// グラフ
//等価所得の平均値 (幾何平均) をみると、男性のほうが高い。
//女性のほうが7−10%低い。
結婚の経歴と性別格差 【4分】
婚姻履歴
- 未婚
- 初婚継続
- 離別 有配偶
- 離別 無配偶
- 死別 有配偶 (人数少ないので結果省略)
- 死別 無配偶
NFRJ98
// グラフ
NFRJ03
// グラフ
NFRJ08
// グラフ
NFRJ18
// グラフ
性別格差の傾向
// グラフ
- 離別無配偶で大きい (女性のほうが25−40%低い)
- 未婚や初婚継続では、差はほとんどない。
離婚後の経済格差の規定要因 【4分】
重回帰分析
離婚経験のある回答者だけに限定
人数:416, 449, 408, 292
独立変数:
- 性別
- 年齢
- 教育年数
- 配偶者の有無
- 常時雇用の継続 (NFRJ18では現職のみ)
- 同居子の有無 (前婚の子と推測できる場合のみ)
- 世帯構成 (単身か; 親同居)
// NFRJ08までは結婚や育児のために辞めた経験をきいている。
// NFRJ18ではこの項目がないので、調査時点で常時雇用だったかどうかで代用
// 同居子は、前婚での子供と推測できる場合に限る。
// 条件が複雑で調査年ごとに違い、かつ不完全
等価所得を規定する要因
- 学歴が高いほど高い
- 再婚していると高い
- 常時雇用を継続していると高い
- 同居子がいると低い
// 同居子の年齢を区分すると、NFRJ18は相対的に年長の子供で効果が出る
// 図で説明
議論 【11分】
結果のまとめ
離別者には巨大な男女格差
- →
離婚が増えると格差が拡大
未婚者・初婚継続者には男女間の経済格差はみられない
- →
未婚化で性別格差は拡大しない
// 今後も離婚の増加が続くなら、離婚にともなう経済格差が重要性を増す
- 結婚しなかった人々には性別による格差が出ない
- いったん結婚したあと離婚した場合の男女差が大きい
結婚と経済格差
結婚の所得再分配機能
- →
それが不安定化すると格差が拡大
// 離婚して結婚前の状態に復帰するなら問題ない。
// 実際には、結婚は不可逆的な変化をもたらす。
4つの要因と結婚との関連
// 図
// 4つの要因のうち、学歴は結婚前までにほぼ決定している。
// 再婚は離婚後の話。
// これらに対して、雇用継続と同居子は、離婚前の結婚生活によるもの。
// 結婚制度との関連に着目すると、
// ふたつのことが、離婚後の等価所得を引き下げる要因として重要
- 結婚・出産・育児によるキャリアの中断
- 離婚時に、母親が子供を引き取ることが多い
// 女性はキャリアを中断するが男性はそういうことはない
// 親権をどちらが引き受けるか
それで?
キャリアの中断と子供の養育負担が離婚後の女性の経済状態を悪化させる
- →
それは常識では?
母子世帯の貧困リスク
- →
戦後の社会政策の主要対象
// 素朴な実感として知られている事柄に代表性のあるデータで精確な裏付けを示す意義はあるが…
なぜ解決しないのか
- 問題があることは知られている
- 実際に政策対象になっている
- しかし格差は大きい
// 実態がわからなくて放置されてきたわけではない。
// 問題を知っていて対策を打ってきたにもかかわらず、今日の状況になっているということ
何が「問題」なのか
- 問題になっているのは「貧困」である
- 離婚による「不平等」はあまり問題になっていない (法学等の一部を除く)
// 家族制度の根本的な問題とはあまり捉えられていない。
// 財産分与や養育費負担制度の改善、調停による介入など、進歩はある。
// それでもほとんどは協議離婚。
// 給付や税控除、就業支援による対症療法的政策が中心。
// 「勝手に結婚して勝手に離婚したんだから、自己責任」
家族は「平等」であるべきか?
- 伝統的な家族制度ではどうだったか?
- 近代的な家族制度では?
// 私がどう考えるかの問題ではなく、一般的にどう考えられているか。
// 支配的なイデオロギーではどうかが問題。
家族制度と平等イデオロギー
「平等」の2側面
- 家族 (の中で) は平等であるべき
- 家族
制度
は
社会的
平等の実現に貢献すべき
// 伝統/近代の対立は、前者についてはあるが、後者についてはない。
// 近代の家族制度の根本的な問題。
// 家族とは、特定の範囲の親族を優遇する制度。
// 家族の影響を切断する「教育」と、全員に一定水準の生活を保障する「福祉」が対抗措置として用意されてはいる。
// 家族内での分配が福祉システムの一部である (家族主義的福祉) ところがややこしい。
// 「離婚」の位置づけは両義的。
// 法学での議論は、前者 (家族内での平等の問題) を拡張しようとしている?
文献
- 岩田正美,2005,「政策と貧困」岩田正美・西澤晃彦編『貧困と社会的排除』ミネルヴァ書房,15-41.ISBN: 4623041387
- 神原文子,2006,「母子世帯の多くがなぜ貧困なのか?」澤口恵一・神原文子 (編)『親子、きょうだい、サポートネットワーク』(第2回家族についての全国調査 (NFRJ03) 第2次報告書 2) 日本家族社会学会 全国家族調査委員会,121-136.
<https://nfrj.org/nfrj03_2006_pdf/nfrj03_200602_8.pdf>
- 篠塚英子, 1992, 「母子世帯の貧困をめぐる問題」『日本経済研究』22: 77-118.
- 田中重人, 2008, 「Career, family, and economic risks」, 中井美樹・杉野勇編『2005年SSM調査シリーズ9: ライフコース・ライフスタイルから見た社会階層』2005年SSM調査研究会,21-33.
<http://tsigeto.info/08c>
- 田中重人,2011,「The economic situation of those who have experienced divorce: The gender gap in equivalent household income」田中重人・永井暁子 (編) 『家族と仕事』(第3回家族についての全国調査 (NFRJ08) 第2次報告書 1) 日本家族社会学会 全国家族調査委員会,143-163.
<https://nfrj.org/pdf/nfrj08_201101_9>
- 田中重人, 2013, 「Gender gap in equivalent household income after divorce」 Tanaka Sigeto (編) A quantitative picture of contemporary Japanese families, 東北大学出版会, 321-350. ISBN: 9784861632266
- 田中重人,2021a,「日本学の方法論 (4)」(東北大学文学部「人文社会序論:現代日本学入門」第8回授業)
<http://tsigeto.info/2021/1st/>
- 田中重人,2021b,「離婚経験者の経済状況の性別格差:趨勢と規定要因」松田茂樹・筒井淳也 (編)『夫婦関係』(第4回全国家族調査 (NFRJ18) 第2次報告書 1) 日本家族社会学会 全国家族調査委員会.
<https://nfrj.org/nfrj18publishing.htm>
- 田宮遊子・四方理人, 2007, 「母子世帯の仕事と育児」『季刊社会保障研究.』43(3): 219-231.
<http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18624405.pdf>
- 中川善之助, 1928,「親族的扶養義務の本質 (1): 改正案の一批評」『法学新報』38(6): 1-22.
- 永瀬伸子, 2004, 「離別母子家庭の就業と賃金経路」社会政策学会 第108回大会, 2004.5.22, 法政大学.
- 日本労働研究機構, 2003, 『母子世帯の母への就業支援に関する研究』(調査研究報告書 156).
- 濱本知寿香, 2005, 「母子世帯の生活状況とその施策」『季刊社会保障研究』41(2): 96-110.
<http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/13999904.pdf>
- 藤原千沙, 2005, 「ひとり親の就業と階層性」『社会政策学会誌』13: 161-175. DOI: 10.24533/ssgs.13.0_161
- ※
その他の資料はスライド中に表示。
著者への問い合わせ
ご質問/ご意見をお寄せいただけると幸いです:
リンク
関連するサイトとページ:
東北大学
/
文学部
/
現代日本学
/
田中重人
Tohoku Univ
/
School of Arts and Letters
/
Innovative Japanese Studies
/
TANAKA Sigeto
History of this page:
- 2021-10-22:Created
- 2021-10-23:Revision
This page contains Japanese characters encoded in accordance with MS-Kanji: "Shift JIS".
Generated 2021-10-23 07:50 +0900 with
Plain2.
Copyright (c) 2021
TANAKA Sigeto