職業構造と女性の結婚・出産退職傾向との関連を調べる。 1985年の全国調査による個人経歴データを使うが、 近代型の性別分業 (職業労働と家事労働との分業) に焦点を絞るため、 家内企業に属する女性をのぞいて分析する。 標本を1945年以前と以後の2つの出生コーホートに分け、 これらの間の変化に注目する。第1の仮説は、高い職業的地位は、その経済的優位性のゆえに退職率を引き下げる、と主張する。 だがデータから見出されたのは、高い職業ほど退職率が高いという、この仮説に反する結果だった。
第2の仮説は、日本的経営の職場においては、流動的な職務と企業定着的な職務との間の性分離が 性別役割規範を強めて退職率を押し上げる、と主張する。 しかし男女の企業間移動率の値の変動からは、この仮説が予測するような動きは見られない。
第3の仮説は、職業上の達成機会が女性の退職率を引き下げると主張する。 達成機会の構成要素として、内部労働市場の規模と企業間移動における上昇移動率の2指標を使う。 分析結果は、2要因両方の減少が退職率上昇の必要十分条件だという ものであり、この仮説の予測に一致する。
分析結果は、達成機会が女性の労働市場定着性の主たる促進要因であることを示している。 また同時に、戦後の期間を通じて女性の達成機会は増大してこなかったこと、そのために 退職率が60%水準で一定してきたことが示された。