[SSM Survey]
[Tanaka S.]
性別職域分離と女性のフルタイム継続就業
(第23回数理社会学会大会 (Mar. 1997) )
- 田中 重人(大阪大学人間科学研究科社会学専攻)
- (tsigeto(AT)nik.sal.tohoku.ac.jp)
- 1 女性の職場進出と職域分離
- 2 職域分離とフルタイム継続率
- ○ 反作用仮説
- ○ 女性化仮説
- ○ 時間差仮説
- 3 分析結果
- 文献
- 図表
フルタイム職を結婚・出産後までつづける女性の比率(以下「フルタイム継続率」)は、戦後日本においては
ほとんど変化せず2割程度の値を保ってきている [田中: 1]。
いわゆる「女性の職場進出」とは、未婚期だけの就業や中年期にはいってからのパートタイム労働など、
性別分業原理に抵触しないかたちでの就業に限られた現象なのだ。
とはいえ雇用されて働く女性が増えたことは確かである。
こうした女性の職場進出が女性のフルタイム継続率にどんな影響をあたえているかについて、
性別職域分離という視点から分析を加えることが本報告の課題である。
以下では「国勢調査」1950, 70年の職業小分類別男女数データ [総理府: 2]と、
1995年「社会階層と社会移動」(SSM)全国調査女性A票 [3]を使う。
ただしそれぞれの調査が採用している職業分類はかなり食い違っているので、最大公約数的なカテゴリーをとった。
また、「小売店主」など自営業主であることが確実なカテゴリーと、農林漁業、
および分類不能の職業をのぞいている。
このため、職業カテゴリー数は127個とかなり少なくなる。
「国勢調査」1950年データでは全職業に占める女性の比率は29.1%であったものが、
1970年には35.8%と増加している。
このような女性の増加が起こるには、2種類のケースがあり得る。
ひとつは、女性が多数を占めている職域が膨張したことによって女性の比率が増加するケースだ。
職域ごとの女性率が一定でも、各職域の膨張・縮小によって全職業合計の女性率が変化しうるのである。
だが各職業の1950年の女性率に1970年の各職業の人数(男女計)をかけたものの
合計を計算してみると、全職業合計の女性率は26.5%となり、1950年の値よりも低くなってしまう。
1950年の時点で女性が多数を占めていた職域は、その後の20年間にむしろ縮小の勢いにあったといえよう。
1950-70年の女性の職場進出は「女性職」の膨張によってもたらされたものではなく、
もともと女性の少なかった職域に女性が進出した結果なのだ。
それでは、女性の職場進出はすべての職域について均等に進んだのだろうか?
図1は、各職業について1950年と70年の女性率を点描したものだ。
ほとんどの職業が 45度線(点線)より上にあるから、
確かに各職業内部での女性率が増大しているのがわかる。
だがその増大の程度は職業によってまちまちだ。
図1の上に凸な曲線は、各職業の男女比(女性の数/男性の数)が均等に増加した
(すべての職業で1.548倍になった)とした場合の予測値をあらわしている。
男女比が各職業で均等に変化したとしても、
女性率が半分に近かった職業で女性の進出が大きくあらわれる傾向があることに気づかれるだろう。
だがそれ以上に、職業間のばらつきは大きい。
これは、1950-70年の女性の職場進出が特定の職業に集中して生じたものであることを示している。
女性の職場進出の様相は職業ごとに大きく違うのである。
したがって、女性の職場進出にともなう変動は、特定の職業に集中してあらわれていると予測できる。
このちがいは女性のフルタイム継続率にどのように影響しているだろうか。
女性の就業継続を妨げる職場環境は、
男性の領域に女性が進出してきたことへの反作用として
男性の利害に基づいて創り出される、とするのが「反作用仮説」である。
この仮説によれば、女性比率が増えつつある職業では
フルタイム継続を妨げるような制度・慣習が創り出されることになる [Cockburn: 5]。
一方、女性が多い職業ほど女性がはたらきつづけやすい、とする仮説を
「女性化仮説」と呼んでおこう。
女性が職場で直面する困難は女性の数の少なさに起因するものであり、
女性が増加すれば困難は自然に解消する、と考えるのである [Kanter: 6]。
さらに、女性化仮説の変形として、女性比率の増加が実際の職場の変化にあらわれるのは相当の期間を要する、
とする仮説がある。
非常に長期を取るならともかく、何10年かのスパンで見れば、
女性が増加することの影響はほとんどない。
したがって、元来女性が多数を占めていた職業ではフルタイム継続率が高いが、
もともと女性の少なかった職業では、たとえ女性比率が増加しつつあるとしても
フルタイム継続率は低い、と見る [Konno: 7]。
平野ほか [8]のように、職業が固定的な性役割と組み合わされた場合にのみ
フルタイム継続を促進する効果をもつと考える説も、
この仮説の特殊なケース(時間差が無限大)といえる。
フルタイム継続率の定義は、田中 [1: 154]参照。
大雑把には、結婚前初職にフルタイム雇用(常時雇用または派遣社員)だった
女性のうちで、末子誕生時までフルタイム雇用に残っていた人の割合である。
職業カテゴリーは、次の3つを区分する。
- 元来女性職 1950年の女性率が2/3以上の職業
- 女性増加職 1950年の女性率が2/3未満で、1950-70年の女性率増分が13%以上の職業
- 女性非増加 その他の職業
初職で「女性増加職」についていた女性は、ほかの職業カテゴリーにくらべて
フルタイム継続率が低い(表3)。
これは反作用仮説を支持する分析結果といえる。
- 田中 重人、1996「戦後日本における性別分業の動態」『家族社会学研究』8: 151-161, 208。
- 総理府統計局、1974『職業別就業者の時系列比較』(昭和45年 国勢調査資料シリーズ 7)日本統計協会。
- 1995年SSM調査研究会、1996『1995年SSM調査コード・ブック』。
- 1995年SSM調査研究会、1995『SSM産業分類・職業分類(95年版)』。
- Cynthia Cockburn、1991『In the Way of Women: men's resistance to sex equity』ILR Press。
- Rosabeth Moss Kanter、1977→1993=1995『企業のなかの男と女』(=高井葉子 訳)生産性出版。
- M. Konno、1996「Negotiating Gender in Uncertainty」『International Journal of Japanese Sociology』5。
- 平野 貴子 + 神田 道子 + 小林 幸一郎 + J. Liddle、1980「女性の職業生活と性役割」『社会学評論』120: 17-37。
付記 本研究は1995年SSM調査研究の一環としておこなったものである;
データの使用および結果の発表にあたって同研究会の許可を得た。
また本研究は1996年度文部省科学研究費補助金(特別研究員奨励費)による研究成果の一部である。
[目次] [1章] [2章] [3章]
[図表]
(C) 田中重人
この論文は、第23回数理社会学会大会
(1997年3月19日:東京大学文学部)で報告する予定のものです
(報告要旨集に掲載されているものとほぼ同一ですが、
原稿中にあった間違いを修正した個所があります)。
ご意見・ご批判をいただければ幸いです。
なお、論文の全部または一部を著者の許可なく転載・配布することを禁じます。
注意
1995年SSM調査データは、現在もクリーニング作業が進行中です。
したがって、SSM データの分析結果は未確定値です。
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田中 重人 (tsigeto(AT)nik.sal.tohoku.ac.jp)
Created at 2002-02-12. Last updated at 2002-04-22.