Paper read at the Tokyo Meeting (March 2003, Tokyo University) of Research Committee on Social Stratification and Mobility (RC28), International Sociological Association.
社会階層論は、本来は社会的資源の不均等な配分過程一般に焦点をあわせるものであり、あらゆる不平等を対象とする理論構成を持ちます。 しかし、実際の研究であつかわれてきたのは職業や学歴といった特定の領域での不平等であり、 性別による不平等も、これらの特定の領域についてのみあつかわれてきました。 また、近年、性別による不平等を解消するための政策形成が重要な課題となっていますが、 そうした具体的な政策について、そのロジックを検討し、望ましさや実現可能性を評価する作業がおこなわれてきませんでした。 当論文は、社会階層論の一般的な形式をまず定式化し、それを実際にとられている政策に即して性別の不平等に応用することにより、性別不平等の社会学的な理解を進めるとともに、具体的な政策の評価のための枠組みを提供することを目指すものです。
当論文では、まず社会階層論の一般的形式を、属性→地位→報酬という3つの要素の連関として定式化し、格差の生成過程はこの要素間連関によって複数の段階にわかれること、平等化を目指す政策には、どの段階に照準をあわせるかによって複数の選択肢がありうることを示しました。 ついで、世帯内の性別分業による性別格差の生成過程について、(1) 世帯内での principal earner と accommodator への男性と女性の割り当て、(2) これら2種の労働者間での労働市場参加の格差の発生、(3) 労働市場参加の格差に応じた報酬の格差の発生、の3段階に整理できることを示しました。 その上で、現行の日本の平等政策は (2) に照準をあわせる work/family balance 政策と、(3) に照準をあわせる family-friendly 政策であることを指摘しました。 さらに、近年の計量的な研究成果を参照し、これらの政策にはそれぞれ問題点があり、平等が達成できる見込みが薄いことを指摘しました。
当論文は、性別不平等の生成過程とそれに対する政策とを社会階層論の枠組みでうまく整理しており、社会学的な性別不平等の分析に新たな途を拓いた点で学術的に大きな寄与をなすと同時に、平等化を目指す政策の評価に貢献するものです。 特に、格差生成過程のどの段階に注目するかによって「平等社会」の具体的な像がちがってくることの指摘と、 世帯内での2種の労働者への割り当て (上記の (1)) の平等化が緊要の政策課題であることの指摘が重要です。
「男女共同参画社会」を目指す取り組みにおいては、まず目指すべき「平等社会」がどのようなものであるかを決定し、そのうえでその目標のためにとりうる政策手段を合理的に検討することが望まれます。 当論文はこれらの点について基本的な視座をあたえるものであり、今後の政策形成・政策評価の際に参照されるべき業績となっています。
Created: 2003-06-27. Updated: 2003-12-18.