田中 重人 (TANAKA Sigeto)
<tsigeto(AT)nik.sal.tohoku.ac.jp>
「男女共同参画ビジョン」を検討し、市場労働時間と育児の削減による男女間の仕事/家事負担の平等化という政策目標について、男性はつねにフルタイム労働者であるという暗黙の前提があったことをあきらかにした。ついで2000年のNHK「国民生活時間調査」の30代男女の生活時間のデータをもとに推計を行い、「男女共同参画ビジョン」の目標設定では男女の平等な時間配分は実現しないことを示し、代替的にとられるべき政策目標を示した。
書誌情報:田中 重人、2003「男女共同参画社会の実現可能性:生活時間データに基づく政策評価」『季刊家計経済研究』60: 48-56。
社会階層論について、属性→地位→報酬という3つの要素の連関として定式化し、それを性別格差の生成過程に応用することを試みた。格差の生成過程は3つの段階にわかれること、現行の日本の平等政策はそれらのなかのふたつに照準を合わせるものであることを指摘した。また近年の計量的な研究成果を参照し、それらの政策がかかえる問題点を指摘した。
書誌情報: TANAKA Sigeto. 2003. "Principal earner and accommodator in household: an illustration of gender stratification process in contemporary Japan". Paper read at Meeting of Research Committee on Social Stratification and Mobility, International Sociological Association (University of Tokyo, Tokyo, Japan, 2003-03-02)
将来の生産年齢人口比率に伴って労働供給が不足すると予測されている。この問題に対して、家事専従者を労働市場に引き出すことで労働供給を増加させることが有効だと考えられてきた。だがこれまでの研究は、(1) 労働供給を人数だけで把握し、労働時間による供給量の違いを無視してきた、(2) 家事専従者がすでにおこなっている家事に伴う制約を無視してきた、という2点において不十分であった。本研究では生活時間調査データの家事時間量分布をもとに、家事専従者の労働供給の可能性を時間タームで検討した。その結果、家事専従者の労働供給の可能性は低く、将来の労働供給不足を補う水準には達しないことを明らかにした。従来の研究に比して精密な予測をおこなったところが独創的であり、将来の労働供給の動向について現実的な推計を示した点で、政策形成への寄与が大きい。また生活時間の分布の変動を織り込んで将来の労働供給の予測をおこなう方向性が示されており、今後の発展が期待できる。
書誌情報:田中 重人、2001「家事専従者の労働供給の可能性: 家事時間量分布に基づく推計」『日本労働研究雑誌』493: 4-14。
日本家族社会学会がおこなった全国代表サンプルによる調査 (NFR98) について、無効回答 (回答なし、その他、わからないなど、データ処理上欠損値とみなされる回答) の発生傾向を分析した。年齢と学歴が無効回答傾向を左右する重要な要因であること、地域別の回収率と無効回答傾向とに一定の関連が見られること、項目の回答形式が無効回答を誘発する可能性があることを指摘した。このデータは東京大学のSSJデータアーカイブを通じて全世界の研究者に公開されている。無効回答の発生傾向の情報は、公開データを分析する上での必須の資料を提供するものあり、この点で知的財産形成に寄与している。またこのような非標本誤差の処理は調査データをあつかう社会科学分野に共通の問題であり、基礎的な研究レベルの向上に寄与する研究といえる。本論文は、NFR98データを分析する際の必読の文献と位置付けられている。
書誌情報:田中 重人、2001「無効回答の発生」『家族生活についての全国調査 (NFR98) 報告書 No.2-4: 現代日本の家族意識』日本家族社会学会全国家族調査 (NFR) 研究会。
生活時間の男女差の比較研究においては、家事時間や仕事時間の差や比が使われており、労働時間構成の違いが考慮されてこなかった。本研究は、生活時間データを用いて労働時間構成の効果とライフスタイルにおける男女平等化の効果とを識別する指標を作成し、日本と欧米各国の生活時間データの比較をおこなったものである。分析の結果、通説と異なり、カナダ・アメリカ・イギリスはデンマーク・フィンランドとほぼ同等の高い男女平等度を達成していることがわかった。またこれらの国に日本とオランダを加えた2次元プロットについて、比較福祉国家論の観点から考察をおこない、各国の政治・福祉体勢だけでなく、労働時間構成の効果が、各国のジェンダー体制を比較する上で重要な軸となることを示した。独自の指標を作成した点で独創性があり、これまで見過ごされてきた新しいデータの読み方が示唆されている。また男女共同参画社会を目指す際に重要であるジェンダー統計の作成と国際比較に貢献するものであり、政策形成と国際社会に寄与しているといえる。労働経済学や社会福祉研究など、他の分野における国際比較研究にとっても、基礎的なデータとなる研究成果である。
書誌情報:田中 重人、2001「生活時間の男女差の国際比較: 日本・欧米六か国データの再分析」『年報人間科学』22: 17-31。
地域によって女性の就業状況が異なり、特に大都市の郊外地域においていわゆるM字型カーブが強いことが指摘されてきた。これまでの研究は、(1) 都道府県別データに依拠しており、細かい地域特性を区別しない、(2) 調査時点の居住地と就業状況を使うため、居住地選択と就業行動との因果関係があきらかでない、という2点で不十分なものであった。本研究は、1995年の全国調査の個人経歴データをもとに、居住地と結婚・出産時就業行動との関連を分析したものである。結婚・出産時点より前の居住地のデータを使い、『国勢調査』による市町村外通勤率によって地域を区分した。分析の結果、 (1) 結婚・出産以前に大都市郊外に居住していた女性は結婚・出産時にフルタイム就業を続ける可能性が低いこと、(2) 年少時の居住地域は結婚・出産時の就業行動に影響を与えないことがわかった。因果推論が可能な時間順序のデータを扱うとともに細かな地域特性のデータを用いたコーディングをおこなった点が特徴である。
書誌情報:田中 重人、2000「性別分業を維持してきたもの: 郊外型ライフスタイル仮説の検討」盛山 和夫 (編) 『日本の階層システム4 ジェンダー・市場・家族』 東京大学出版会、93-110。
(1) 生活時間の男女差の数表を用い、周辺分布の変動による変化と男女の平等化による性別分業の変化とに分解する方法を検討した。またNHK「国民生活時間調査」の1960-1995年データを用い、性別分業の強さにはほとんど変化がないことをあきらかにした。 (2) 女性の「職場進出」の趨勢について、「労働力調査」および1985/95年の「SSM調査」を分析し、戦後日本社会においては、フルタイム継続率は2割程度で一定しており、変動していないことをあきらかにした。(3) 市場労働/家事労働について男女が持つ相対的優位性にしたがって夫婦間で分業がおこなわれるという新古典派経済学の枠組みにしたがい、性別分業をささえる経済的な基盤を検討した。「賃金構造基本統計調査」の1967-1997年データを利用し、男女それぞれが育児期にキャリアを中断することの機会費用を比較した結果、男女の機会費用の格差は急速に縮小しており、性別分業は経済的基盤を失いつつあることがあきらかになった。
書誌情報:田中 重人、1999「性別分業の分析: その実態と変容の条件」大阪大学大学院人間科学研究科博士論文。
性別分業を経済合理的な世帯の行動として説明しようとする試みのなかには、世帯全体の効用の最大化を目指して家族員の労働が配置されるので、性別賃金格差が縮小すれば性別分業が弱くなるとする「ラディカル派」と、男女の役割分担は規範的に制約されているため、性別賃金格差の縮小は性別分業の基本的なパターンに影響しないとする「穏健派」が区別される。本研究は、戦後日本における家族の変動を説明する上で、これらの2つのモデルのうちどちらが適合的であるかを探ったものである。「賃金構造基本統計調査」「労働力調査」「社会階層と社会移動 (SSM) 全国調査」「社会生活基本調査」「国民生活時間調査」にみられる変動を追跡した結果、性別賃金格差の縮小にもかかわらず性別分業の基本的パターンは変化していないことがわかった。この結果から、「穏健派」のモデルのほうが適合度が高いことがあきらかになった。家族の意思決定については研究分野によって異なるモデルが流布しており、その間の対話が十分におこなわれてきたとはいえない。異なるモデルを同一の俎上に載せて見当をおこなった本研究は独創的なものであり、家族の行動をあつかう場合の基礎的なデータを提供している。またジェンダー問題や労働供給、人口問題を扱う各種の政策の分野に対しても、有用なデータとなる。
書誌情報:田中 重人、1999「The rational household theory examined: Does equalization in wages change the sexual division of labor?」『理論と方法』14(1): 19-34。
女性のフルタイム継続就業に対して学校教育が持つ影響力について、1985/1995年の全国調査の職業経歴データを用いて検討した。大卒女性は一見フルタイム継続率が高いようにみえるが、教員をのぞいた分析ではこの関連は消える。また女性本人の職業的地位と結婚相手の職業的地位を統制したロジスティック回帰分析でも、学歴の効果はみられない。これらの分析結果から、学校教育はフルタイム継続就業に影響しないと結論づけられる。
書誌情報:田中 重人、1997「高学歴化と性別分業: 女性のフルタイム継続就業に対する学校教育の効果」『社会学評論』48: 130-142。
Created: 2003-05-29. Updated: 2003-10-23. This page contains Japanese characters encoded in accordance with MS-Kanji: "Shift JIS".
Copyright (c) 2003 Tanaka Sigeto.