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田中重人 (東北大学文学部教授)
2023-12-21
現代日本学各論III/現代日本学社会分析特論I「現代日本における家族と人口」
ひとりで生きていけない人の生活を誰が保障するかという問題。→ 旧来の共同体 (家族や地域) か、政府か、市場か?
歴史的経験を通じて経済における国家の役割が増大し、「混合経済」と呼ばれる経済体制が確立する (Samuelson, 1974)。
20世紀後半には多くの国で医療保険・年金制度が整備される →基本的人権としての「社会権」と、国家の責任としての「福祉」
実際には、社会保険と公的扶助だけでは用が足りないので、ほかのさまざまな制度を総合して、全体として生活困難に対応する仕組みが成り立っている。そのような諸制度をふくめ、ある社会において救貧・防貧の機能を果たす仕組みの全体を、「生活保障システム」と呼ぶ (大沢 2007)。
福祉国家は、しばしば「修正資本主義」と呼ばれる国家体制の一種である。
お金で買えるものであれば、必要とする人に必要なだけのお金 (給付金) を渡せばよい。この場合、そのお金をどう使うかは、給付された人次第であり、普通に市場で供給されるものを、必要に応じて買うことになる。
一方で、お金を渡すだけではうまくいかない性質の事柄もある。たとえば病気になったときにどんな治療が適切かを判断するには、医学の専門知識が必要になる。そこで、医師や看護師などの免許を政府が管理し、病院や薬局なども一定の基準を満たさなければ経営できないような法律をつくって医療を供給する仕組みがつくられてきた。
健康保険はこの医療制度の重要な一部である。健康保険であつかえる検査・薬・手術などは政府が決めており、病院などでは、通常、その範囲内で診療活動をおこなう。健康保険に加入している人が、保険で指定されている範囲内での医学的な検査や治療を受けた場合、その費用が保険から支払われる (ただしこの額は100%ではなく、一部は本人が負担)。
このような制度では、給付されるのは、薬の投与や手術の実施など、実際の医療行為であって、給付金が本人に払われるわけではない。こういう社会保障のやりかたを指して「現物給付」という。
給付金にせよ、現物給付にせよ、誰かが費用を負担する必要がある。可能性があるのはつぎの6つ。
財産や所得があるうちに保険料を払っておいてもらい、それを蓄えておいて、必要になったときにそこから給付を受けるというのが「社会保険」の仕組みである。上記の健康保険は、社会保険の一種である (ただし実際には本人からの保険料だけで運営されているわけではなく、企業や政府も費用を負担している)。
つぎに家族。前近代の社会では、親族組織 (日本の場合、イエ) が生活保障の主体であった。現在の日本でも、親族による私的扶養は生活保障の重要部分を占めている。特に、夫婦同士と、親が未成年の子を扶養する義務は、特別に強い「生活保持の義務」であるとされている (第4講資料) 。
企業による雇用も、生活保障システムの一部である。企業は、労働者に対して、最低賃金以上の賃金を支払わなければならない。仕事上の事故などによるケガや病気 (労働災害) については、その治療期間中は、解雇することができない。それ以外の場合でも、企業が労働者を解雇することができるのは、客観的に合理的な理由があって、解雇が社会通念上相当と認められる場合に限られる。このような法律上の規制に加えて、労働者は組合をつくって企業と交渉し、その環境を改善していく権利がある。
近代化の進んだ社会では、ほとんどの人は労働者として企業に雇われて働くことになるので、そこで安定した雇用と賃金が保障されていることの意味は大きい。また、企業は社会保険の仕組みのなかにも組み込まれており、労働者が加入する健康保険や年金保険の保険料の一部を (賃金とは別に) 支払う。
親族のうち、「直系血族及び兄弟姉妹」(民法 877条) の範囲では、「生活扶助の義務」がある。配偶者間と親→未成熟子の「生活保持義務」(前述) とあわせて、これらの「私的扶養」が、政府による公的扶助よりも優先する原則になっている。
政府は、社会保障の費用の大きな部分を負担する。公的扶助と社会保険がその2本柱である。
これら以外に、困窮した人を助ける民間のさまざまな団体 (NPOなど) がある。生活に困る理由や環境はさまざまなので、一律の制度をつくってもそこからこぼれ落ちるケースが出る。また、申請の手続きが面倒とか、制度自体が分からなくて利用できないということもよくあるので、そういうこともふくめ、現状をよく理解した人による地道な支援活動が必要になる。
生活保障システムを実際に機能させるためには、金銭的な費用のほかに、つぎのような問題がある
日本の仕組みは、これらの点に関して、家族への依存が高い。介護保険制度 (2000年〜) は、ある程度、このような具体的なケア労働や意思決定を専門家に任せる仕組みを組み込んでいる。
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