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田中重人 (東北大学文学部教授) 2024-01-11

現代日本学各論III/現代日本学社会分析特論I「現代日本における家族と人口」

第10講 生活保障システムと家族 (つづき)


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日本の生活保障システムの確立

日本では、1960年代までに社会保障の仕組みがひととおり成立し、「福祉国家」としての体裁が整った。

当時の社会的条件:


生活保持義務と1947年民法改正

明治時代 (1898年) に成立した民法は、親族のうち、父母・祖父母が最優先で扶養を受ける権利を持つと規定。

この規定を批判する法改正運動が1910年代ごろから始まる。

婚姻法上所謂扶養の義務は……実に婚姻関係の核心的事実とも云ふべきものである。……若し之が履行されなかったら、その時には婚姻の実質は既に亡んで居るとさへ言っても宜いのである

……

親がその未成熟の子を養育する義務も、是れまた、単なる扶養ではない。……子を養育せざる親と云ふことは抑々概念自体の矛盾である。

……

斯くして吾人は、民法に所謂「扶養の義務」のうち、婚姻法上の扶養義務と親子法上の扶養義務とは、その基本的身分関係の必然的絶対的要素たるものであり、之に比べれば、親族法上及び家族法上の扶養義務は、之を欠く親族関係若しくは家族関係なるものも考へ得らるべき謂はば偶然的相対的なることを知った

……

仮に私は、前者を「生活保持の義務」と総称し後二者を併はせて「生活扶助の義務」と呼びたい。……「生活保持の義務」は、最後の一片の肉、一粒の米までをも分け食らふべき義務であり、他者の生活を「扶け助くる」に非ずして、之を自からの生活として保持するものである。

――中川 (1928→1976)

この運動は結実しなかったが、戦後の民法全面改正 (1947年法律222号) ではこの主張に基本的に沿った扶養義務規定を採用した。民法中に「生活保持」などのことばが出てくるわけではないのだが、実質的に中川の「生活保持の義務」論を採用したものとする解釈が標準的。

夫婦とその間にできた未成熟子からなる「核家族」(nuclear family) を、強力な生活保障機能を持つ社会的装置として利用する法的前提

1960年代の家族の特徴

大部分の人は結婚し、そのまま離婚しないで過ごすため、核家族による生活保持の恩恵を期待できるできるが、それには夫婦のすくなくとも片方に経済力が必要である。一方で、死別は多いから、配偶者に先立たれたために貧困に陥ることを防ぐ仕組みが必要 (特に女性に対して)。長生きした場合も、高齢になって定年退職すると、それ以降は収入の保障がない。

このため、当時まず要求されたのは、夫婦の片方に経済力を保障すること

男性稼ぎ主モデル (大沢 2007): 若年・中年層の男性が安定的な職に就いて定年まで働けるようにする

定年以降の高齢者と、稼ぎ主を亡くした配偶者はどうするか

老齢年金、遺族年金

これとは別に、病気や事故に対する備えも必要

健康保険、障害年金

それ以降の変化

財政状況の変化と社会保障政策の転換 (1970年代以降)

家族の変化 (1980年代以降)

その他

1960年代の仕組みではカバーできないタイプの生活困難が増加しているが、それに対応する変化は緩慢である (富永 2001; 田中 2022)。


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