田中 重人 <http://tsigeto.info/25y>第35回日本家族社会学会大会 (2025-09-06)
(東北大学)
[Abstract] (on the Conference website)
[第35回日本家族社会学会大会] / [報告要旨集]
[Abstract] (PDF version on the Conference website)
科学的知識がしばしば不確実性を孕むことはよく知られている。たとえば医学においては、実験や観察などの結果の安定性が低く、頑健な結論が得にくい。また医療の対象となる患者は十人十色だから、患者によって適用すべき知識がちがう。そして新薬や新治療法などがつぎつぎ現れるので、それらの効能を見極めるのが大変である。このように不安定で多様で変化が激しい分野において、的確な意思決定のための信頼できる知識を得ることは容易でない。
こうした不確実性に対抗して、「医療判断の決定に,最新で最善の根拠を良心的かつ明確に,思慮深く利用する」[1: p. 2] ことを目指して1990年代以降整備されてきたのがEBM (evidence-based medicine) の方法論である。この文脈における「エビデンス」(evidence) とは、公刊文献を主要媒体として収集した知見の集積であり、それらの妥当性と重要性を批判的に吟味したうえで、個々の患者に対する臨床上の意思決定に役立てるものである。
「エビデンス」概念は医学分野ではEBMの普及にともなって広まったのだが、政策分野ではEBPM (evidence-based policy making) の方法論が普及した [2] ため、政府内部で独自研究をおこなって導出した、特定の政策を正当化するための根拠を指すことが多い。しかし他方では、既存の公開された研究成果を集め、それらの知見を総合するEBM に近いやりかたで「エビデンス」を収集する事業を政府がおこなう場合もあり、何を指して「エビデンス」と呼ぶかには混乱がみられる。
本報告では、こども家庭庁「科学的知見の充実・普及に向けた調査研究」をとりあげる。同庁がNTTデータ経営研究所に委託して2024年度におこなった事業であり、9人の専門家からなる調査委員会による助言を受けて実施された。2023年閣議決定「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン」[3] に基づいて、乳幼児期の「アタッチメント」(愛着) と「遊びと体験」のふたつのテーマをとりあげている (https://www.cfa.go.jp/policies/kodomo_sodachi/research) 。既刊の論文をたくさん収集して評価するという、EBMに比較的近いやりかたで「エビデンス」をあつかっている。
同事業の公開報告書 [4] [5] に基づき、つぎのような点に着目した検討をおこなう: (1) 政策目標に合致した適切な問いを設定しているか、(2) 含めるべき文献を網羅的に含めているか、(3) 因果関係と相関関係を区別できているか、(4) データ収集や測定の方法、交絡要因に対する考慮、サンプルの特性などについてじゅうぶんな批判的吟味があるか、(5) 効果量を適切に評価しているか、(6) 知見を適用したい具体的対象からみた重要性をどのように判断しているか。これらの検討結果に基づいて、同事業における「エビデンス」理解の問題点を考察する。
(本研究はJSPS科研費 JP24K05302 の助成を受けたものである。詳細は {http://tsigeto.info/25y} 参照)
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