統計コミュニティは統計不正にどう対応したか

田中 重人

- 毎月勤労統計調査問題における政府・専門家・非専門家のはたらき

田中重人 <http://tsigeto.info>
(東北大学)

東北大学文学研究科研究年報 73:198-169 (2024-03-07)

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Title: 統計コミュニティは統計不正にどう対応したか: 毎月勤労統計調査問題における政府・専門家・非専門家のはたらき || The statistics community and the misconduct issue for Japanese official statistics: How the government, experts, and non-experts responded to the problem of the Monthly Labour Survey
Author: 田中重人 || TANAKA Sigeto
Journal: 東北大学文学研究科研究年報 || Annual Reports of Graduate School of Arts and Letters, Tohoku University
Publisher: 東北大学大学院文学研究科 || Graduate School of Arts and Letters, Tohoku University
Volume: 73
Pages: 198-169 (1-30)
Date: 2024-03-07
Language: JPN
Handle: 10097/0002000821
CRID: 1050299605470247168
NCID: AA11521033
ISSN: 1346-7182
OSF: https://osf.io/wdj9e
Academia.edu: https://www.academia.edu/116413521

URI: http://tsigeto.info/24a
OSF project: https://osf.io/rs8t7/

要約

公的統計の不正が長い間隠されてきた事例が、この数年で複数みつかった。これらの問題の検証にあたり、日本の統計コミュニティ、すなわち統計に対する関心とそれをあつかう能力および相当の日本語能力を備える人々は、じゅうぶん貢献したようにはみえない。それはなぜか。本稿は、厚生労働省が「毎月勤労統計調査」(全国調査) の労働者数推計に2018年から誤った方法を持ち込んだ問題をあつかう。2018年以降の文献を検討した結果、政府内でこの統計を審査した各種委員会も、政府外の統計専門家も、厚生労働省が用意した資料と説明に依拠していたため、推計方法変更とそれによる偏りの徴候を見逃していたことがわかった。コミュニティ中心部を占める専門家たちは、政府内統計担当者の主張に非批判的であり、公開データで独自の検証をおこなうことなく追認してきたのだ。この問題に関して、日本の統計コミュニティは、周辺部にいる非専門家を別とすれば、データに基づく検証を軽視してきたといえる。

1. 統計コミュニティとその役割
- 1.1. 「私物」としての公的統計
- 1.2. 公的統計はなぜ「私物」でありうるのか
- 1.3. 「統計コミュニティ」とは
2. 毎月勤労統計調査問題と本稿の課題
- 2.1. 母集団労働者数推計に関する層間移動事業所のウエイトの変更
  - 2.1.1. 毎月勤労統計調査の母集団労働者数推計の概要
  - 2.1.2. 層間移動事業所のあつかい
  - 2.1.3. 2018年のウエイト計算方法変更
  - 2.1.4. 誤った再集計による過去データへの波及
- 2.2. 本稿の課題
3. 非専門家による指摘
- 3.1. 山田正夫の指摘
- 3.2. TATの指摘
- 3.3. 明石順平の指摘
4. 統計専門家の対応
- 4.1. 松本健太郎の記事
- 4.2. 日本統計学会「公的統計に関する臨時委員会報告書」
- 4.3. その他のデータ分析例
- 4.4. 田中重人の指摘
5. 政府の活動
- 5.1. 厚生労働省
- 5.2. 毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会
- 5.3. 統計委員会
  - 5.3.1. ベンチマーク更新時のギャップの検討
  - 5.3.2. 抽出率逆数に関する資料
  - 5.3.3. 時系列比較のための推計値
- 5.4. 厚生労働省の有識者懇談会
- 5.5. 厚生労働省「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」
6. 議論
- 6.1. 結果のまとめ
- 6.2. 公的統計と統計コミュニティの未来

図・表

表1. 2018年1月ベンチマーク更新時母集団労働者数：従来の公表値と再集計値 [(a) ベンチマーク更新による推計母集団労働者数の増分; (b) ベンチマーク更新直前の推計母集団労働者数] (厚生労働省 (2018, 2021a)「毎月勤労統計：賃金データの見方～平成30年1月に実施された標本交替等の影響を中心に」 p. 10 による)
図1. 毎月勤労統計調査の推計母集団労働者数 [(a) 30-99人規模事業所; (b) 500-999人規模事業所] (「政府統計の総合窓口」(e-Stat) 「毎月勤労統計調査全国調査」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791 による)
図2. 「きまって支給する給与」再集計による増加率 (%) (「政府統計の総合窓口」(e-Stat) 「毎月勤労統計調査全国調査」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791 による)

政府内会議の資料・議事録

統計委員会

(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/kaigi.html)

[統計委員会第130回議事録] 第130回統計委員会 (2019年1月17日) 議事録 {https://www.soumu.go.jp/main_content/000622733.pdf}
[統計委員会第131回資料8] 厚生労働省「毎月勤労統計調査について」第131回統計委員会 (2019年1月30日) 資料8 {https://www.soumu.go.jp/main_content/000597500.pdf}
[統計委員会第134回資料4-3] 厚生労働省「毎月勤労統計調査について」第134回統計委員会 (2019年3月18日) 資料4-3 {https://www.soumu.go.jp/main_content/000607313.pdf}
[統計委員会第135回議事録] 第135回統計委員会 (2019年4月18日) 議事録 {https://www.soumu.go.jp/main_content/000632777.pdf}
[統計委員会第135回資料6-2] 厚生労働省「「統計委員会の意見書についての審議結果を受けた厚生労働省への情報提供の要望」に対する回答」第135回統計委員会 (2019年4月18日) 資料6-2 {https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf}
[統計委員会第137回資料4] 厚生労働省「毎月勤労統計調査について」第137回統計委員会 (2019年5月24日) 資料4 {https://www.soumu.go.jp/main_content/000621414.pdf}
[統計委員会第153回議事録] 第153回統計委員会 (2020年7月31日) 議事録 {https://www.soumu.go.jp/main_content/000722151.pdf}
[統計委員会第153回資料7] 厚生労働省「毎月勤労統計調査について」第153回統計委員会 (2020年7月31日) 資料7 {https://www.soumu.go.jp/main_content/000701014.pdf}

厚生労働省

毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会

[特別監察委員会報告書]「毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する報告書」(2019年1月22日) {https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/000472506.pdf}

毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ

(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-toukei_456728_00007.html)

[WG第1回議事録] 第1回 (2021年7月9日) 議事録 {https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20584.html}
[WG第1回参考資料3] 第1回 (2021年7月9日) 参考資料3「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループについて」 {https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000802079.pdf}
[WG第2回資料1] 第2回 (2021年8月26日) 資料1「ベンチマーク更新の方法等について」 {https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf}
[WG第3回議事録] 第3回 (2021年11月5日) 議事録 {https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html}
[WG第5回議事録] 第5回 (2022年7月22日) 議事録 {https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27722.html}
[WG第5回資料2] 第5回 (2022年7月22日) 資料2「母集団労働者数の推計について」 {https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf}
[WG第8回議事録] 第8回 (2023年7月21日) 議事録 {https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html}
[WG第8回資料] 第8回 (2023年7月21日) 資料「母集団労働者数の推計について」 {https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/001122515.pdf}

厚生労働省統計改革ビジョン2019 (仮称) 有識者懇談会

[有識者懇談会第1回議事録] 第1回 (2019年7月22日) 議事録 {https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000534565.pdf}

文献

明石順平 (2019)『国家の統計破壊』集英社インターナショナル． {ISBN:9784797680386}
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厚生労働省 (2018)「毎月勤労統計：賃金データの見方～平成30年1月に実施された標本交替等の影響を中心に」(2018年9月当初公開版) {https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11176517/www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/maikin-20180927-01.pdf}．
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厚生労働省 (2020b)「毎月勤労統計調査 (全国調査・地方調査)：毎月勤労統計調査における「時系列比較のための推計値」等の公表について」 {https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11546003/www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1h.html}．
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付記

本稿は、社会政策学会第144回大会 (2022年5月14日) での報告内容を改訂したものである。また、 Twitter や個人ブログで公表してきた文章を再利用した部分がある。図で使用したデータについては、 Open Science Framework サイト掲載の情報 {DOI:10.17605/OSF.IO/RS8T7} を参照。

追加情報

{DOI:10.17605/OSF.IO/RS8T7}

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