[田中の研究成果]
[日本の階層システム]
性別分業を維持してきたもの
郊外型ライフスタイル仮説の検討
田中 重人 (TANAKA Sigeto)
(tsigeto(AT)nik.sal.tohoku.ac.jp)
盛山 和夫 (編)
『日本の階層システム4 ジェンダー・市場・家族』
東京大学出版会
(2000年6月16日刊行、ISBN4-13-055124-8)
第5章 (p. 93-110)。
目次
1. 性別分業の変動をめぐって
- 女性の社会進出」と性別分業
- 女性フルタイム継続率の趨勢
- 「家事=愛情=女性」
- 循環の構図
2. 郊外型ライフスタイル仮説
4. 議論
注
女性のフルタイム継続率
は居住地域によってどうちがうのかを調べます。
1995年SSM調査 の女性サンプルの職業経歴データを使っています。
結婚以前の居住地域のうち、
義務教育終了時 (15才時とみなす) と初職就職時 (職業経歴データから就職年がわかる) の2時点の居住地を、
市町村レベルで「大都市」「郊外」「その他」に3分類します。
- 大都市
- 東京都特別区部と1990年当時の政令指定市
(札幌・仙台・横浜・川崎・名古屋・京都・大阪・神戸・広島・北九州・福岡)
- 郊外
- 1990年国勢調査最終報告書で設定された7つの「大都市圏」の圏域のうち、
上記の大都市をのぞく部分の市町村で、当時の
市町村外通勤率 が30%以上の市町村。
- その他
- それ以外の市町村 (地方都市または郡部)
「郊外」の認定につかう「当時の市町村外通勤率」は、つぎの手順でもとめます。
- 各サンプルの15才または初職就職の時点を割り出す
- その時点にいちばんちかい年次の国勢調査 (1955年から5年ごとで1995年まで) 報告書をみて
- その市町村常住の就業者数 (W)
- そのうちでその市町村の外に通勤している人 (C)
の数をそれぞれ求める
- C/W が「市町村外通勤率」である (この値が0.3以上なら「郊外」)
分析してみてわかったこと:
- 結婚前に「郊外」居住だった女性のフルタイム継続率は低い
- 義務教育終了時「その他」だったものだけを取り出しても、
初職時居住地とフルタイム継続率の間には同様の関係が見られる
(地方から郊外に出てきて就職した女性のフルタイム継続率は、
もともと郊外の出身である女性と同様に低い)
女性の就業パターンは居住地域によって影響を受けている、ということと、
その影響は出身の居住地の文化によって形成されるような安定的なものではなく、
地域移動によってつぎつぎと変化していくような即効性の効果である、
というのが結論です。
参考文献
- Mary C. Brinton、1993、Women and the economic miracle: gender and work in postwar Japan、University of California Press。
- 陳珍珍、1998、「日本における地域別の女性の就業パターン:山形県と埼玉県の例を通じて」『日本労務学会第28回全国大会研究報告論集』、p. 181-186。
- 原純輔・肥和野佳子、1990、「性別役割意識と主婦の地位評価」岡本 英雄・直井 道子 (編)『現代日本の階層構造4 女性と社会階層』東京大学出版会、p. 165-186。
- 川口章、1997、「男女間賃金格差の経済理論」中馬 宏之 + 駿河 輝和 (編)『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会、p. 207-241。
- 松信ひろみ、1996、「既婚キャリア女性と戦略としての都心居住」『年報社会学論集』9: 13-24。
- 似田貝香門、1996、「現代都市定住と居住空間:住宅計画と都市再生」『岩波講座 現代社会学18 都市と都市化の社会学』岩波書店、p. 59-73。
- 大沢真知子、1993、『経済変化と女子労働:日米の比較研究』日本経済評論社。
- 労働省政策調査部、1996、『賃金センサス:平成7年賃金構造基本統計調査』労働法令協会。
- 瀬地山角、1996、『東アジアの家父長制:ジェンダーの比較社会学』勁草書房。
- 総務庁統計局、1995、『平成2年国勢調査最終報告書 日本の人口(資料編)』日本統計協会。
- 鈴木淳子、1997、『性役割:比較文化の視点から』垣内出版。
- 竹中英紀、1998、「ニュータウンにおける住宅階層問題の構造」倉沢進先生退官記念論集刊行会『都市の社会的世界』UTP制作センター、p. 247-265。
- 田中重人、1996、「戦後日本における性別分業の動態:女性の職場進出と二重の障壁」『家族社会学研究』8: 151-161, 208。
- 田中重人、1997、「高学歴化と性別分業:女性のフルタイム継続就業に対する学校教育の効果」『社会学評論』48-2 (190): 130-142 。
- 田中重人、1999、「性別分業の分析:その実態と変容の条件」博士論文 大阪大学大学院人間科学研究科。
- 山田昌弘、1994、『近代家族のゆくえ:家族と愛情のパラドックス』新曜社。
- 大和礼子、1995、「性別役割分業意識の二つの次元:「性による役割振り分け」と「愛による再生産役割」」『ソシオロジ』123 (40-1): 109-126。
謝辞
分析にあたっては、林拓也 (東京都立大学)・松信ひろみ(長岡短期大学) の両氏に助言をいただきました。
またこの巻の執筆者のかたがたには、研究会で途中経過を報告した折にコメントをいただきました。
大阪大学人間科学研究科のかたがたには、
研究会などでの討論をつうじてのストーリー構築と文章校正にご協力いただきました;
特に菅野剛・鈴木富美子・村上あかね・松川太一・岡尾将秀・内海博文・景山佳代子の各氏にお礼申し上げます。
この論文の最終的なかたちは、編者の盛山和夫 (東京大学) 氏からの助言によってコンパクトにおさまりました;
原稿提出が大幅におくれたにもかかわらずその都度適切なコメントをいただきましたことに感謝します。
資料
- 「大都市圏」市町村一覧
- 1990年「国勢調査」で設定された7つの大都市圏にふくまれる市町村の一覧です (総務庁統計局 1995: 791-769)。
市町村名が空欄のところがあるのは、コード→名称変換用データベースとして1998年のもの
(http://www.lasdec.nippon-net.ne.jp/jyuusyo/jyu_top.htm
から 1999-01-06 にダウンロード)
を使ったせいで、1990年当時の情報とくいちがいがでている
(合併や市制施行のためにコードが削除された) ケースが主です。
- 年次・市町村別市町村外通勤率一覧
- 1990年「国勢調査」で設定された大都市圏の市町村 (「中心市」をのぞく) のうち、
SSMデータに出てきたものについて、市町村外通勤率(%)への変換表です。
私はこれを使って、30%<市町村外通勤率 のときに「郊外」にコードしました。
後者のファイルをつくるにあたって参照したのは、{総務庁,総理府}統計局による『国勢調査報告』にのっているつぎの数表です。
- 1955(昭和30)年
- 第4巻その2『従業地の産業』
第3表「常住地または従業地によって区分した産業(大分類)別15才以上就業者数−市区町村」
- 1960(昭和35)年
- 第3巻その2『全国編 従業地・通学地による産業別就業者数と通学者数』
第3表「常住地または従業・通学地によって区分した産業(大分類)別15歳以上就業者数および通学者数」
- 1965(昭和40)年
- 第3巻その3『従業地の産業』
第2表「常住地または従業地・通学地による産業(大分類)別15歳以上就業者数および通学者数−市区町村」
- 1970(昭和45)年
- 第6巻その1 『通勤・通学集計結果 従業地・通学地による人口・年齢・男女・産業・職業』(地域分冊)
第2表「従業地・常住地,産業(大分類)別15歳以上就業者数」
- 1975(昭和50)年
- 第4巻その1『通勤・通学地編 全数集計結果 従業地・通学地による人口I:年齢・男女・産業』(地域分冊)
第4表「従業地・常住地,産業(大分類)別15歳以上就業者数」
- 1980(昭和55)年
- 第5巻その1『従業地・通学地による人口I:男女・年齢・産業』(都道府県分冊)
第1表「常住地による就業者数、従業地による就業者数」
- 1985(昭和60)年
- 第6巻その1『従業地・通学地による人口I:男女・年齢・産業(大分類):第2部 都道府県・市町編』(都道府県分冊)
第1表「常住地による就業者数、従業地による就業者数」
- 1990(平成 2)年
- 第6巻その1『従業地・通学地による人口I:男女・年齢・産業(大分類):第2部 都道府県・市町編』(都道府県分冊)
第1表「常住地による就業者数、従業地による就業者数」
- 1995(平成 7)年
- 第6巻その2『従業地・通学地による人口I:人口の男女・年齢, 就業者の産業(大分類):その2 都道府県・市町編』(都道府県分冊)
第1表「常住地による就業者数、従業地による就業者数」
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E-mail tsigeto(AT)nik.sal.tohoku.ac.jp
Created: 1999-12-10.
Updated: 2003-05-28.
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