「少子化対策」プロパガンダ関連情報
- 2010年代日本における非科学的知識の政治利用
田中 重人
<http://tsigeto.info/officej.html>
(東北大学)
(2019-03-06)
- URI:
http://tsigeto.info/misconduct/
- Brochure:
http://d.hatena.ne.jp/remcat/20180920
先頭が矢印 (→) ではじまるものは他の人・組織による情報、そうでないものは田中が書いたもの
新着情報
概要
2015年8月、文部科学省は高校保健副教材『健康な生活を送るために (高校生用)』改訂版を公表しました。この教材は、妊娠・出産に関する医学的・科学的知識をはじめて盛り込んだものとされ、その40ページには、「妊娠のしやすさと年齢」の関係を示すものとして、22歳をピークとして急激に下降するグラフが掲載されていました。これは1998年の論文からの引用とされていましたが、出典表示が不正確であるうえに、曲線が改竄されていたことが判明し、文部科学省は、年齢による変化がより緩やかなグラフに差し替えました。
この改竄グラフについては、これまでにつぎのことがあきらかになっています:
- 吉村泰典内閣官房参与(福島県立医科大学副学長、慶應義塾大学名誉教授、日本産科婦人科学会元理事長、日本生殖医学会元理事長)が作成して自身のウェブサイトや講演資料で使用していたこと、
- 日本産科婦人科学会などの学術団体が内閣府に「学校教育における健康教育の改善に関する要望書」を共同提出した際の参考資料に含まれていたこと (日本家族計画協会『家族と健康』732号)
しかし、この事件について吉村氏および関連する学会からの説明はおこなわれていません。加えて、このグラフの元となった研究の推定値が妥当性に乏しいものであることも指摘されています。しかしじゅうぶんな調査をおこなわないまま文部科学省は正誤表を発行し、この副教材は使用継続されていました〔2016年度末に改訂版が公表され、そこではこのグラフはなくなっています〕。
また、このような教材が作られたのは、「日本人の妊娠・出産の知識レベルが低い」という国際比較調査の結果が喧伝されたことがひとつの要因ですが、この調査はきわめて質の低いものであり、国際比較につかえる信頼性のあるデータとはいえないことが指摘されています。
これらの一連の問題は、科学的な知識が政治的な目的で不適切に利用されていることを示しています。その背後には、日本政府のいわゆる「少子化対策」が、非科学的知識を動員したプロパガンダに軸足を移しつつあることと対応しています。「少子化」を止めるためには、若いうちに結婚・出産するライフコースを定着させることが必要であり、そのために、「妊娠するのは若いほうがいい」という専門家の言説がつくられるようになってきているのです。
このページでは、この問題に関連して田中が発表した論稿と、収集した情報をまとめています。
目次
問題の全体像
国際比較調査の濫用と「日本人は妊娠・出産の知識レベルが低い」説
[スターティング・ファミリーズ調査 (IFDMS) 関連情報クリップ]
推定方法不明の日別妊娠確率 (Dunsonほか 2002)
[このグラフに関連する情報のクリップ]
Science 論文から傾きの大きいデータを抜き出した日本生殖医学会サイトのグラフ
[このグラフに関連する情報のクリップ]
世界各国で使われる都市伝説グラフ
[このグラフに関連する情報のクリップ]
高校保健副教材「妊娠のしやすさ」グラフ改竄問題
グラフ改竄の経緯
高校保健副教材『健康な生活を送るために』作成の経緯
『健康な生活を送るために』ウェブ版
http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/08111805.htm
は改訂のたび旧版が削除されます。過去のファイルは
http://archive.org
などで探せます。
研究史における当該グラフの位置づけ
「卵子の老化」概念の変遷
[「卵子の老化」概念に関連する情報のクリップ]
年齢の効果を誇張した「卵子の数」グラフ
[「卵子の数」グラフに関連する情報のクリップ]
責任の所在と学術倫理
その他
浦安市長成人式「出産適齢期は18歳から26歳」発言
地方公共団体による宣伝冊子/講演会など
[地方自治体関連クリップ]
医師や各種団体による非科学的広報の背景
第4次男女共同参画計画 (2015年)
関連する文章一覧 (田中が書いたもの)
発表順
- 「妊娠のしやすさ」をめぐるデータ・ロンダリングの過程
(2015-08-23 / 2015-08-28)
- Pushing a falsified chart into high-school education material
(2015-09-04)
- 年齢−受胎確率曲線の文献間のちがいについて
(2015-09-15)
- 日本産科婦人科学会等9団体による改竄グラフ使用問題
[PDF] (2015-09-05 / 2015-09-16)
- Misuse of a falsified chart about the likelihood of conception in high-school education material in Japan
(2015-09)
http://www.isa-sociology.org/rc32.htm
ISA RC32 (Women in Society) Newsletter No. 2, pp. 9-10
- 学術倫理に関する資料集
(2015-11-18)
- シンポジウム「高校保健・副教材にみる専門家の倫理と責任―データ改ざんと出産誘導」
(2015-11-30 東京)
- 「スターティング・ファミリーズ」調査について
(2015-11-30) シンポジウム「高校保健・副教材にみる専門家の倫理と責任―データ改ざんと出産誘導」(東京)
- 改ざんグラフを持ち込んだ吉村泰典内閣官房参与と関連専門9団体への質問状
(2015-11-30) シンポジウム「高校保健・副教材にみる専門家の倫理と責任―データ改ざんと出産誘導」(東京)
- 日本産科婦人科学会「妊娠に適した時期…は女性にとっては25〜35歳前後です」
(2016-01-12)
- 日本家族計画協会『家族と健康』732号記事「学校教育の改善求め要望書提出」訂正
(2016-01-24)
- 「男女共同参画基本計画」(第1次〜第4次) に出現する「性差」
(2016-02-04)
- Bendel and Hua (1978) を引用する文献
(2016-02-16)
- 「妊娠・出産に関する正しい知識」が意味するもの: プロパガンダのための科学?
(2016-03) 『生活経済政策』230: 13−18
- International Fertility Decision-making Study (IFDMS)
(2016-03-14)
- 濫用される国際比較調査と日本の世論形成: International Fertility Decision-making Survey と少子化社会対策大綱
(2016-03-17) 第61回数理社会学会大会 (上智大学, 東京)
- 高校保健副教材「妊娠しやすさ」グラフの適切さ検証: 人口学データ研究史を精査
(2016-03-30) 東北大学プレスリリース
- 【解題】高校保健副教材「妊娠しやすさ」グラフの適切さ検証: 人口学データ研究史を精査
(2016-03-31)
- 吉村泰典「妊娠のしやすさ」改竄グラフコレクション
(2016-03-31)
- Menken ほか (1986) の Science 論文から「代表的なデータを抜粋」したと称する日本生殖医学会サイトのグラフについて
(2016-04-30)
- Sources: Some Data on Natural Fertility (Louis Henry 1961)
(2016-04-30)
- 「妊娠のしやすさ」改竄グラフ作成者は吉村泰典氏であることを内閣府が確認
(2016-05-28)
- 厚生労働省 動画「妊娠と不妊について」書き起こし (一部)
(2016-05-28)
- 日本人は妊娠リテラシーが低い、という神話:社会調査濫用問題の新しい局面
(2016-06-01) 『Synodos』2016.06.01
- 高校副教材「妊娠しやすさグラフ」をめぐり可視化されたこと
(2016-06-18) 日本学術会議公開シンポジウム「少子社会対策と医療・ジェンダー: 「卵子の老化」が問題になる社会を考える」 (日本学術会議講堂, 東京)
- 高校保健副教材問題から考える科学リテラシー教育
(2016-07-11) 東北大学広報誌『まなびの杜』77 原稿
- Sheps (1965) Table 2 によるハテライトの女性年齢別婚姻内出生率 (ASMFR)
(2016-08-20)
- Misinformation with a low-quality international multilingual survey
(2016-09-08) Human Reproduction 編集者への手紙として執筆
- 産婦人科・生殖医学で広報・政治活動に使われているグラフの科学的根拠の検討
(2016-09-11) 第26回日本家族社会学会大会 (早稲田大学, 東京)
- I Lady 「新・女子力テスト」問題
(2016-11-14)
- I LADY. 「新・女子力テスト」とニセ医学:ジョイセフ×電通「粉かけ罰ゲーム動画」の背景
(2016-11-21) 『messy』2016.11.21
- Works Citing Bendel and Hua on Natural Fecundability: a literature review on the origin of a falsified chart used in high school education in Japan
(2017-03-01) 『東北大学文学研究科研究年報』66: 142-128
- 産婦人科医の考える「エビデンス」とは
(2017-03-17)
- 「卵子の老化」初出? (1974年 日本医学会シンポジウム)
(2017-03-22)
- 「卵子の老化」その後
(2017-03-22)
- 非科学的知識の生産・流通と「卵子の老化」パニック
(科学研究費補助金 (基盤研究 (C)) 2017-2019年度 #17K02069)
- 日本人は妊娠・出産の知識レベルが低いのか?: 少子化社会対策大綱の根拠の検討. 『文科省/高校「妊活」教材の嘘』論創社 (2017) 第6章
- 『文科省/高校「妊活」教材の嘘』出版記念シンポジウム: 「少子化対策」のゆくえと課題
(2017-06-03 東京)
- 「卵子の老化」言説の作られ方
(2017-06-03) 『文科省/高校「妊活」教材の嘘』出版記念シンポジウム: 「少子化対策」のゆくえと課題 (麻布台セミナーハウス, 東京)
- The origin of a chart indicating the likelihood of conception linearly declining with age: a literature survey
(2017-06-12)
- Wanted: Information on a fabricated graph exaggerating women's fertility decline with age
(2017-06-25)
- 非科学的知識の広がりと専門家の責任: 高校副教材「妊娠のしやすさ」グラフをめぐり可視化されたこと
(2017-08-01) 『学術の動向』22(8): 18-23
- Professional responsibility for spreading unscientific knowledge: the case of the "ease of conception" graph in a high school supplementary textbook
(2017-09-03). 『学術の動向』22(8):18-23 原稿からの英訳.
- Another science war: fictitious evidence on women's fertility and the "egg aging" panic in 2010s Japan
(2017-10-30). 『Advances in gender research』24: 67-92.
- 「卵子の老化」関連書籍
(2018-03-15)
- 厚生労働省動画「妊娠と不妊について」
(2018-03-17) (旧版 2014-03-05 を掲載)
- 都道府県ライフプラン冊子
(2018-03-31)
- ライフプラン冊子には何が書いてあるのか
(2018-04-01) 連続勉強会 <「国難」のなかのわたしたちのからだ> 第1回 (渋谷アイリス, 東京)
- Hijacking the policy-making process: political effects of the International Fertility Decision-Making Study for 2010s' Japan
(2018-07-17) 世界社会学会議報告 (distributed paper) (トロント)
- Fake information for the 'egg aging' propaganda: the role of experts and journalists in its emergence, authorization, and radicalization
(2018-07-17) 世界社会学会議報告 (oral presentation) (トロント)
- 2010年代日本における「卵子の老化」キャンペーンと非科学的視覚表象
(2018-08-30). Project "Unscientific Knowledge and the Egg Aging Panic" Research Report II
- Unscientific Visual Representations Used for the "Egg Aging" Campaign in 2010s Japan
(2018-08-27). Project "Unscientific Knowledge and the Egg Aging Panic" Research Report I.
- 「少子化」論の変遷:日本社会は何から目を背けてきたのか
(2018-12-08) 科学技術社会論学会 オーガナイズドセッション: 「少子化」をめぐる科学言説 (成城大学, 東京)
- 厚生労働科学研究費補助金2012年度「母子保健事業の効果的実施のための妊婦健診、乳幼児健診データの利活用に関する研究」における被験者に対する人権侵害事件について
(2019-01-15)
- 「少子化」観の形成とその変化:1974年から現在まで
(2019-03-24) 連続勉強会 <「国難」のなかのわたしたちのからだ> 第2回 (麻布台セミナーハウス, 東京)
情報源
東北大学
/
文学部
/
日本語教育学
/
田中重人
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